ラーシャス・ポイズン
episode1

分からない君




ずっと昔から好きな人がいた。

彼は家の近い私の幼馴染みで、名前は柊 司(ひいらぎつかさ)


小学校を卒業すると彼は私立の中高大一貫校へ、私は公立の中学校へ通ったが、私は勉強を頑張って、中学を卒業した後は彼のいる高校へ編入した。

別に恋心を拗らせたわけでも、恋愛感情で志望校を決めたわけでもない。ただ彼は私の憧れの対象であり、人生の指標だったから。

彼が傍に居ることで、目に見える場所に居ることで何か変わる気がした。少なくとも私は彼を価値ある人間とみなしていて、彼という人間に近付くことが自分の成長に必要なことだと思っていた。




高校の編入生歓迎会、私の姿をその切れ長の目に映した彼は、何もかも見透かしたみたいに薄く嘲笑した。



「愚かですね」と。









編入生も数にしてみればなかなか多い学校なので、編入生同士で馴染むことはできた。

しかし友達と言える人間ができたかと言えば答えは否である。


連絡先を交換し、薄っぺらな会話をし、「私たち友達だよね」という空気感の中での作り笑い。

気が合うと言うよりは気を合わせている感じで、たまたま席の近かったその女の子たちは私よりずっと上品で、いつの間にか彼女たち同士で仲良くなり、疎外感を覚えるくらいならと私は孤立することにした。


それが、五月。



一人のまま六月も半ばに近付き、特に悲しいわけでも楽しいわけでもない日々が続いた。
かなり細かくクラス分けされていて、一クラスの人数が多いというわけでもなかったので、クラスのメンバーの名前はある程度覚えることができた。




中でも弐川秋一《にかわしゅういち》という背の高い剣道部の男子生徒は見た目も声も性格も特徴的ですぐ覚えられた。


一重瞼でややつり上がった目、長い下睫毛。鼻筋が通っていて彫りの深い顔立ちで、色素が薄くベージュ色の髪をしている。
どうやらどこか寒い国との間のハーフらしかったが、彼が浮いていたのはその見た目のせいではなく、彼の性格の問題もあった。

彼は中等部からこの学校に在籍しているようで、殆どの生徒は慣れているのか彼に関する驚きを見せることはなかったが、編入生の私からするとギョッとすることの連続だった。
授業をサボることもしばしばで、マイペースかつ機嫌の悪い時と良い時の差が激しく、何を考えているのか分からずとっつきにくい。

そして何より――女癖が悪い。


いつも別の女生徒といるうえ、その女生徒たち自身もその状態を許容しているようだった。
彼は“皆の弐川くん”として共有されていた。

体の関係を持っているのかまでは分からないが、おそらく持っているのだろう。

休み時間に所構わず色んな人とイチャイチャしている彼は、傍から見ている分にも引くくらいの、色男だった。




< 2 / 3 >

この作品をシェア

pagetop