ラーシャス・ポイズン
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「……あ。柊くん」
昇降口で、本当にたまたま柊くんに会った。
“待ち伏せですか……”みたいな顔をされたけど、今日は本当にたまたまだ。
「お、おつかれさま」
てっきり柊くんは遅くまで学校に残っていると思っていたから、まさか今日会えるとは。
緊張して目が泳ぐ私に、下駄箱からローファーを取り出す直前だったらしい柊くんが、扉を閉めて一歩近付く。
静かな昇降口で、頬に柊くんの長い指が触れた。
ぎゅっと力強く目を瞑る私と、触れるだけのキスを落としてくる柊くん。
――あのキス以来、柊くんは会うたびキスをしてくるようになった。
きっと何も考えていないのだろう。
甘い雰囲気なんて一切なしで、すぐに私から離れた柊くんは、靴を履いて外へ出ていく。
しかし、その途中でぴたりと足を止め、私を振り返る。
「来ないんですか?」
何も考えていない柊くんの何気ない言動にいちいちきゅんとしてしまう。
行く!と言ってその背中に抱きついてしまいたいくらいだ。
でも。
「……今日はいいや」
後ろで手を組みながら、柊くんを見ずに言った。
柊くんと一緒に帰れる可能性があるなら意地でも予定を空けたけど、今日は絶対会えないと思ってた。
だから――用事を入れてしまった。
スマホの充電ランプが点滅している。
さっきから繰り返し連絡が来ている。
「ああ、そうですか」
柊くんは興味なさげに踵を返し、私を置いて行ってしまった。