ラーシャス・ポイズン







――――ぴんぽん、とインターホンの呼び出し音がして目が覚めた。

壁にある時計を見ると、二人で眠りについてから二時間ほどが経過していた。

秋一くんを揺すったが、眠そうに眉を寄せて寝返りをうった秋一くんは、「宅配だったらサインしてきて」と私に出ることを要求した。

寝起きの悪い秋一くんを置いて、玄関まで小走りで行って急いでドアを開ける。


「…………え」


どうして私はインターホンを先に確認しなかったんだろう。

外の熱気がじわじわと玄関に入ってきている。



そこには怪訝そうな顔をする、――柊くんが立っていた。



咄嗟に柊くんの腕を掴み、靴を履いて、できるだけ音を立てないように外へ出た。
外は思ったより蒸し暑く、セミの声が五月蠅い。


「……なんでここに」
「それはこちらのセリフなんですが……」


不可解なものを見るような目で見下ろしてくる柊くんは、会っていない間に背が伸びたように感じられる。


「母さんが肉じゃがを作りすぎたので持っていってやれと。僕は弐川くんに持ってきたはずなんですが、ここは貴女の家でしたか。知らぬ間に引っ越されていたようで」
「ちっ……違うよ!今日はただ遊びに来てるだけで……」
「弐川くんはどこに?」
「リビングで寝てる……」
「なら渡しておいてくれますか。彼が起きたら二人で仲良く食べてください。では」
「ま、待って!」


肉じゃがが入っているであろう袋を私に渡してあっさり去ろうとする柊くんを引き留めた。

久しぶりすぎてどういう態度を取っていいか分からなくて、自分の指が震えているのが分かる。


「柊くん、好き」
「はあ」
「会えなくて寂しかった」
「……」
「連絡もしたかった、けど、」
「……」
「できなくて……」


何も知らない柊くんからしたら、意味の分からないことを言っているであろうことは分かる。
でも止まらなくて、柊くんの腕をぎゅっと掴んだまま、溢れてくる感情を言語化するのに必死だった。



「好意は、言葉ではなく行動で示してください」


次の言葉を選んでいた私に、柊くんが淡々と言い放つ。


「会いに来たいなら会いに来ればいいし、連絡がしたいなら連絡してくればいい。何を勝手に自制しているんだか知りませんが、以前の貴女ならそうしていたでしょう」


柊くんはそんな気全くないかもしれないけれど、私のしつこさを初めて許容されたように感じて涙が出た。



「泣くほど僕が好きなくせに他の男の家で色目を使っている暇があるなら、僕に媚びを売ったらどうなんですか?」


柊くんの言葉を聞くと、私はこんなに簡単に泣ける。柊くんは私のかみさまだ。


「……うん。そうする、柊くん、ちゅーして」


切なく強請ると、ハァ、と溜め息を吐いた柊くんの顔が近付いてくる。唇をはむはむされた後、僅かに開かれた私の口に入れ込むように舌が入ってきた。

びく、と後ろにさがりかける体を、先回りしていた柊くんの腕が止める。


「……これ好き、もっと、もっと舐めてほし……」


キスの合間に何とか発していた言葉の途中で舌を軽く噛まれた。


「んっ……、はぁ、」


茹だるような暑さも相まって、脳味噌が蕩ける。
キスだけで達してしまいそうだ。


太ももがぷるぷるしだしたその時、


「熱中症になる危険性があるので、これで失礼します」


あっさり私とのキスを中断した柊くんは、暑そうに自分の手で風を送りながら帰って行った。



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