ラーシャス・ポイズン


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家にはお母さんもお母さんの彼氏もいなかった。

私が友達を連れてきたらお母さんは喜んだだろうけど、私はお母さんたちがいるとあまり居心地がよくないので内心ほっとした。

お風呂場からバスタオル、私の部屋から着替えを取ってきて桜ちゃんに渡した。


「シャワー浴びていいよ。ドライヤーも借りていいし」
「――“経験しなくていい痛みを多く味わった”ってそういうことなんですか?」


ようやく口を開いた桜ちゃんの第一声。
ああ、そこに怒ってるのか。桜ちゃんは説教臭く止めたくせに、自分はしてるんだもんね。


「うん。最初はお母さんの彼氏だった」


あんなところ見られたらもう言い逃れできないと思って観念して言った。
桜ちゃんなら受け入れてくれる気がしたから、その言葉は想像以上にさらりと口から出てきた。


「母親の恋人と関係持ってるんですか」
「ヤってないよ。さすがにお母さんの彼氏は断った。でも……」


体を求められることで、癖になるくらいの愉悦に浸った。


「一度断ったくせに、また求められたくて仕方なくなった。そんな時に街を歩いてたらナンパされて、それは断れなかった。その時の私は欲していたから」


私に“求められる快感”を教えたお母さんの彼氏は、結局他の誰かと結婚した。



「……貸してください、スマホ」
「え?」
「いいから早く!ロック開けてよ!!」


桜ちゃんが声を荒げるので、ちょっとびっくりしながらスマホの画面を開く。


すると桜ちゃんは即座に私からスマホを奪い、LINEを開いて苛立った様子でトーク画面をスクロールしていく。


「どれ?あのオッサン。これ?」


二週間くらい連絡を取っていなかったにせよ、私はそもそも友達追加している人間が少ないのですぐに見つかった。


「そうだけど……」と答えた瞬間、桜ちゃんが彼をブロックし削除する。


「ちょ、ちょっと」
「他は?ってか、見りゃ分かるか。あやめ先輩友達少ないですもんね。これとこれとこれと……三人?何このメッセージ、きも。」


私の援助交際相手を次々とブロ削した桜ちゃんは、カリカリと噛んでいた爪から口を離し、ギロリと私を睨んだ。

次の瞬間、凄い勢いで壁に体を押し付けられた。


「欲してたってなんなんですか?」


背中を勢いよく壁にぶつけたせいで痛い。でも桜ちゃんの形相が怖すぎて歯向かう気になれない。


「オッサン三人分の欲くらい、私でも何とかできますよ」


リアルに壁ドンされてる……と状況を処理できないまま思った。




「私男の人が好きだけど、セックス自体は女の人とする方が好きなんです」




――――桜ちゃんが湿った唇で私にキスをした。

グロス特有のベタベタ感を初めてキスで知った。





刹那、柊くんの顔が脳裏を過ぎって、思わず顔を背けて桜ちゃんから唇を遠ざけた。


「ご、ごめん」


自分から出るか細い声。なんて先輩としての威厳のない、頼りない声なんだろうと思った。


「私、好きな人がいて、その人に悪いから、桜ちゃんとこういうことはできない……」


数秒の間の後、不機嫌そうな桜ちゃんから質問が飛んできた。


「付き合ってるんですか?」
「え?」
「付き合ってるんですか?その人と」
「……」


あれ? 私、付き合ってるのかな。

何となく罪悪感を抱いて抵抗してしまったけど、私と柊くんってどういう関係だ?

性行為はした。でも、性行為をする関係だから恋人とは限らないということ、私は他の子よりも深く知っている。

あれから柊くんから何かアクションを起こしてきたわけでもない。私と柊くんは、体の関係を持った後もいつも通りだ。


……あれ? 私、そんなに浮かれられるほど進展したのかな。

キスは前からしていたし、体が触れ合うことを恋人と呼ぶならば、秋一くんとセックスした時だって私と柊くんは恋人だった。


黙り込む私の顔の間近で、桜ちゃんが言った。



「私は自分が誰かと付き合ってても、今目の前にいるあやめ先輩が可愛いから手を出しますけどね」



抵抗する理由を失った私に濡れた体が引っ付いて、それが合図だった。



私この短期間で何人と一線を越えてるんだろうって、女の子特有の良い香りに包まれながら考えた。



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