ラーシャス・ポイズン


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秋一くんと待ち合わせたのは、その一時間後だった。

秋一くんの家の近くの交差点の角にある、大して料理がおいしいわけでもないファミレス。

一人ではあまり来ないその場所で秋一くんと久しぶりに向かい合って座った。

お互いドリンクバーとハンバーグセットだけ頼んで、冷める前にと食べながら、早速話を振る。


「聞きたいことが色々あるんだけど、……まず……」


紙ストローでカルピスを吸って、あの日からずっと気になっていたことをどきどきしながら聞いた。


「柊くんとはどういう流れでえっちしたの?」


あの時は傷付くのが怖くて聞けなかったし、知りたくないと思ってたけど、ここまで来たらもう怖いものなしだ。
柊くんに彼女がいると知った今、もう十分傷付ききった。これ以上の下はきっとない。


「いや、真っ先に聞くのがそれぇ?」


ぶはっと吹き出した秋一くんは、面白そうに目を細めた。


「どういう流れでって言われてもなァ。向こうは興味本位だよ。あいつは知的好奇心が旺盛だから、俺が誘ったら面白そうですねって襲ってくれたの」


柊くんに好奇心のみで行動するどこかズレたところがあるのは私も知ってるし、納得はできる。
そうか、既に一線を越えているならキスくらい日常的なスキンシップのようなものだろう、とあの雨の日の二人を思い返した。

すると秋一くんが続けた。


「俺ねぇ、ちゅーがくの時いじめられてたんだよねぇ」
「……人気者なのに?」


教室にいる時の、常に誰かと一緒にいる秋一くんからは想像できない。


「そりゃ女のコには人気よぉ?でもそれは男からしたら気に食わねーし、俺どっちかっつーと男が性欲の対象だったからねぇ」
「“男が性欲の対象だったから”?」
「ホモバレしてキモがられていじめられたってこと」


そう言えば、秋一くんが男子生徒といるところはあまり見たことがない。
いつも女生徒と一緒にいるのは女生徒が好きだからだと思っていたが、男子生徒に嫌われているから女生徒と居ざるを得ないのか。


「去年の修学旅行の時、同室の奴らにサンドバッグにされた挙句窓から突き落とされた。その後で同じく同室だった柊が帰ってきて、俺の代わりに他の奴らボコって、センセー呼んでくれたの」


――これ、桜ちゃんがしてた話だ。
去年この学校であった暴行事件。被害者は秋一くんだったんだ……。

だからあの時桜ちゃんは私が知らないことに驚いたのか。てっきり秋一くんから聞いていると思っていたのだろう。

秋一くんと柊くんは中学の時同じクラスだったらしいし、弐川の“に”と柊の“ひ”――名前の順だと近い。二人が修学旅行で同室だというのも納得だ。


「高さはそんななかったんだけど、当たり所悪くて俺それで死にかけたんだよねぇ。あの時タイミングよく柊が部屋に戻ってこなかったら、俺死んでたかもなって今でも思ったり思わなかったり~」
「……」


笑いながら、言うことじゃないでしょ。



「俺を突き落とした奴らも俺が死にかけたってなるとさすがにビビったみたいでぇ、それ以降手ェ出してこなくなった。柊がガチでボコったから俺と仲良い柊のことビビってた部分もあるみたぁい。で、俺その日からしばらく男無理になって、柊としか喋んなかったんだよね。柊が抱いてくれたら俺また男に勃つようになるかも~って冗談半分で言ったらマジで抱いてきやがった。イカれてるよねぇアイツ」



……これが、秋一くんが柊くんに執着している理由。



「で。俺、恋とか愛とかよく分かんねーし、誰かに自分の気持ちを捧げる気なんてさらさらねぇし、誰かを恋焦がれて自分を擦り減らす奴らが今でもマジで理解できねーけどぉ、――その時その瞬間は柊が自分の神さまだって思ったんだよねぇ」



秋一くんが柊くんに抱く、恋と言うよりは崇拝に近いそれ。


――その感情には嫌というほど覚えがあった。



「似てると思ったァ?」


考えたことを言い当てられて顔を上げる。

秋一くんの色素の薄い瞳は、相変わらず吸い込まれそうになるくらいの魅力があった。


「そうだよぉ、あやめちゃん。俺たち似てるんだよねぇ。“柊の幼馴染み”のあやめちゃんと初めて実際に話して、面白半分で近付いてみて、近付けば近付くほど実感しちゃった。こいつ俺だなって。ま、あやめちゃんより俺の方が大分マシだけどね」


長い下睫毛と、色の白い肌と、外国人めいた顔立ち。
この学校に編入して初めて見た時、クラスの中で最も近寄り難く感じさせた風貌をした男――自分とは一生関わることのない人種だろうと思っていた男が、私のことを自分だと言った。


「あやめちゃんはねぇ、そろそろ分かった方がいいよ」




――――そして、冷たく忠告をする。



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