ラーシャス・ポイズン
「い、いやいやいやいやいや、それはさすがに苦しいよ!違うって分かるから。だって幼馴染みだよ?私たち」
「妹がいるという話くらい一度はしたことがあると思いますが……」
「会ったことないのおかしくない!?私昔っから柊くんの家に遊びに行ってたけどいたのお母さんだけで……」
そこではたと思い当たる。
随分前、確か秋一くんが柊くんにキスしているのを見た数日後、私はモヤモヤしすぎて寝られなくて、早朝に柊くんの家に押し掛けた。
……あの時、柊くん、なんて言った?
――『まだ母と妹が寝ているので静かにしてくださいね』
母と“妹”?
何であの時気にならなかったんだろう――いや、理由は分かってるけど。
あの時は秋一くんと柊くんの関係性についてで頭の中がいっぱいで、細かいことを気にしている余裕がなかったのだ。
「貴女が僕の家に頻繁に来ていた頃は、桜は父と一緒にイギリスにいましたから、会ったことがないのは当然でしょう。父と桜が帰ってきたのは僕が中学に上がってからです」
開いた口が塞がらない。
でも、そう言われると納得する部分もある。
桜ちゃんと商店街で会った時、桜ちゃんは外国人観光客を装った男にナンパされていた。
あの時のことは印象に残っているからちゃんと覚えている。
私、男と話している桜ちゃんに対してこう思った。
勉強できないのに英語喋れるんだって――――。
私は柊くんの顔をガン見した後、考えるほど痛くなっていく頭を手で押さえてふらふらとその場を立ち去った。
一人になりたい
待ってほしい
私は
どこで
間違えた?
――『……嘘つき』
――『よく言われるぅ~』
思い出されるのは、ふふんと何故か得意げに笑うあの日の弐川秋一。
こみ上げてくる行き場のない感情に、ぶるぶると身体が震えた。