ラーシャス・ポイズン
五十リットルのワンルームバスタブ。
雨に濡れた私をお湯の溜まっていくそこへ追いやった秋一くんは、私の後頸部と後頭部を押さえて覗き込んだ。
その眉間にはしっかりと皺が刻まれていて、鋭い瞳が私の顔を映している。
まるで視線のみで支配下に置かれたように、瞬きの仕方すら忘れた。
呪いのように鎖で縛られていた私、その鎖を切って新しい鎖で繋いだこの男は、私に対して何らかの感情を抱いている。
その感情が決して純粋な愛情でないことが、また私を動けなくさせるのだ。
「その駄犬が媚びた匂い消してから来いよぉ?」
容赦のない声を出す秋一くんの、以前は不気味だと思っていたはずの瞳の色が吸い込まれる程に綺麗で、整った顔立ちが私の知る他の誰とも異なる繊細な魅力を持っていて。
秋一くんへの気持ちが秋一くんにバレないように、絶対にバレないように、吐きかけた息を呑む。
この気持ちがバレたらきっと、私は負けることになる。
柊くんから離すために、私を落とそうとしている秋一くんに。
秋一くんがバスルームから出ていった後、ずるずるとバスタブに座り込んだ。
「………………私のこと好きになれよ、クソ野郎……」
ああクソ、この呟きを叶えるのが相当難しいのは凄く分かる。
だって恋敵は――――私が死ぬほど慕っている、十年近く慕ってきた、あの 柊 司 なのだから。