ラーシャス・ポイズン




あやめ先輩と弐川くんから突然連絡が来なくなった時、病み散らかして色んな男と遊んだ。


散々抱かれてクソみたいな加虐趣味の性癖最悪男に殴られて、ピアスの穴もう一個空けて物に当たりまくってた時、あやめ先輩から連絡が来た。



あやめ先輩は私と修学旅行を一緒に回る約束を忘れていなかった。

白紙のまま提出していなかったその紙を引きずりだして、泣きながら高坂あやめという文字を書いた。

あやめ先輩に呼び出された場所へ行く時、何を言われるかは予想がついていた。あやめ先輩と弐川くんが付き合い始めたことは、弐川くんが連絡不精になる前に弐川くんに聞かされたし。

フラれる覚悟で店へ行くのは死ぬほどしんどかったしイライラしたけど、店へ着くころにはこれでいいんだって思ってた。




私が大好きな“あやめ先輩”を失ったのは、あやめ先輩と弐川くんが付き合い始めた日じゃなくて、私があやめ先輩の援交相手に嫉妬してあやめ先輩に手を出したその日だったから。



“身体の関係がなくても優しくしてくれる先輩”を、私はあの時自らの手で捨てたのだ。



私が懐いていた彼女が戻ってくるんだと自分に言い聞かせて、店のドアを開けた。





あやめ先輩との体の関係を断った後の、先輩後輩として行く修学旅行中、あやめ先輩はお兄ちゃんと良い感じだった。


幼馴染みだから仲が良いとは聞いてたけど、こんなに仲が良いならくっつけばいいのにと思ってしまった。会話は少ないけど、雰囲気や空気感が合っていた。長年連れ添った夫婦みたいな空気が流れてた。

あやめ先輩とお兄ちゃんがくっつけば、私とあやめ先輩との関係が切れることはないのにって思ったところで、私に近付いた弐川くんも私に近付けばお兄ちゃんとの関係が切れることはないと思ったのかなんて、分かってしまって切なくなった。


同時に弐川くんの顔を見上げると、弐川くんは相変わらず私を見てた。

弐川くんは誰をどう思っていても、目の前の女に誠実なのだ。だから沼る。
感情を隠すのが上手だね、弐川くん。




太宰府天満宮までの道で、弐川くんが急に立ち止まった。

「俺桜ちゃんとスタバいるねぇ」と言って、私はそんなこと一言も言ってないのに私の手を引っ張ってスタバに連れ込む弐川くんに困惑した。

わざわざあんな良い雰囲気のお兄ちゃんとあやめ先輩を二人にするなんて、あの二人の仲を応援しているとしか思えなかった。



「……弐川くん、あやめ先輩と付き合ってんじゃないの。何がしたいの」


列に並びながら疑わし気にそう問うと、弐川くんはふはっと私の好きな笑い方をした。


「ウゼーからさっさとフラれてほしいんだよねぇ」


弐川くんの聞いたこともない声音に、らしくもなくビクッと身体が揺れた。

それを見た弐川くんが、すぐに優しい笑顔を浮かべて、「怖かったぁ?ごめんねぇ」と私の頭を撫でて軽くハグした。


期間限定のフラペチーノを一緒に頼んで、壁際の席に向かい合って座った。



「フラれてほしいって、なに」
「あやめちゃんが。柊に」
「……そのために二人にしたってこと?」


衝撃を受けた。弐川くんが、お兄ちゃんならあやめ先輩をフると思っていることに。

あやめ先輩が話し掛けてきた時のお兄ちゃんの不器用なあの態度や、あやめ先輩からのLINEを見ている時のお兄ちゃんのあの表情を思い出す。


嘘でしょう。

お兄ちゃんあんなに分かりやすいのに、ずっとお兄ちゃんを見てる弐川くんはほんとに気付いてないの?



「お兄ちゃんあやめ先輩のこと好きだよ?」
「知ってる」


ずー、とフラペチーノを吸いながら、指でレシートをくちゃくちゃにする弐川くんが、私の言葉に即レスした。



「でも柊はフるよ。俺がそう仕向けたし。」



当然のように言った弐川くんは、やっぱり私みたいに歪んでる。



「さっさとフラれてぐちゃぐちゃに傷付いて、また俺のとこに泣きついてくればいーのにぃ」




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