ラーシャス・ポイズン




あやめがとっくに僕を卒業していたこと、僕は把握でき得ない立場にいた。

それが答えなのだと思った。


親の再婚のことも新しくできた妹のことも引っ越しのことも、僕は知らなかった。

僕を追ってこの学校へやってきたあやめがこの学校を捨てると言っている。

それは紛れもなくあやめに僕が必要ではなくなったことを表していた。


あやめを弐川くんの元へ置いて去った後、ホテルまでの道を歩きながら、夜に呑まれるような心地で曇った空を見上げていた。



《《->》》
《《%color:#8f8f8f|「柊くん、私柊くんが大好きだよ。ずっと」》》

《《<-》》
「……嘘吐きが」


ほら見ろ。君が僕を見ることなんて永遠になかったでしょう?


胸が痛いとはこういうことなのかと初めて抱く感情を自分の中で処理しながら、ようやく諦めがついたことを自覚した。

結局、あやめから僕を切り離せるのは僕ではなくあやめ自身だったのだ。

守りたいものの存在は人を強くする。
良くも悪くも人間なんて簡単に変わってしまう。

あやめが変わったきっかけは僕の予想しなかった、できなかった、ぽっと出の新しい妹の存在であったのだろう。



途中に橋があり、ふと太宰府天満宮の帰りの道を思い出した。

「あの橋を戻ったらだめなんだよ」――あやめの手を引いて太宰府天満宮の元来た道を戻っている最中、すれ違った女子学生たちがそう話していたのを覚えている。


どうやら太宰府天満宮の3つの橋は、手前から過去、現在、未来の橋と言われているらしい。逆に戻れば過去へと戻ることになる。

過去の橋では「振り返ってはいけない」。

現在の橋は「立ち止まってはいけない」。

未来の橋は「つまづいてはいけない」。


僕は偶然にも過去の橋で立ち止まり、振り返った。



――――執着を捨てきれていないのは僕だ。

僕だけが過去に囚われ続けている。



あんな言い伝えを信じるつもりはないが、目の前の橋だけは立ち止まらずに歩いた。



あやめと弐川くんがいる海岸の方向を、決して振り返らないように。



あの日公園のブランコに座ってこちらに笑いかけてきたあの子と、僕はここで決別する。





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