シリアル・ホラー

1 ともだち

「まこと~」
「おお」

 ゆうじが手を振りながら走ってきた。朝から元気なやつだ。

 月曜日はダルい。今年は例年になく暑い夏で、10月に入っても連日夏日が続いていた。僕は額に吹き出す汗を腕で拭いながら、ゆうじと並んで横断歩道を渡り始めた。
 うちの中学校は遅刻には厳しく、1分遅れただけでも親に連絡がいく。なんでも無遅刻連続1000日がかかっているとかで、先生方や生徒会は毎日ピリピリしている。受験を控えた3年生は毎晩遅くまで受験勉強をしているだけに、早起きはすごくきついってわかってもらいたいもんだ。

「数学の課題やってきたか?」

 ゆうじのドヤ顔ですぐわかった。これはめずらしくちゃんとやってきたって顔だ。

「半分やった。あとは行ってからやる」
「へへ~ん、俺終わったもんね」
「終わるのとちゃんとできてるかは別問題じゃね?」
「うっせー!」
「ははっ」

 ゆうじが軽く押してきたので、僕は笑いながら避けた。すると反対側から歩いてきた人の肩にぶつかってしまった。

「あ、すいません」

 僕はとっさに謝った。その人は中年のサラリーマンで、歳は30歳から40歳くらい。特に特徴もない、どこにでもいるおっさんだ。謝る僕をじろりと見ると、その人はそのまま歩いて行ってしまった。

「おい、大丈夫か?」
「ああ大丈夫」

 僕は腑に落ちない気がしたが、気を取り直して歩き始めた。

「で数学の問題がさ、ってあれ?」

 隣を歩いているはずのゆうじがいない。振り返るとゆうじは、さっきのサラリーマンの後ろ姿を、立ち尽くしてずっと見ていた。

「おい、ゆうじ」

 僕がゆうじの肩を掴んで揺すると、ゆうじははっと我に返ったように僕を見た。そこで初めて焦点が合ったかのように。
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