シリアル・ホラー

3 津波

 その地方を襲った未曾有の大地震は、歴史上初めてと言っていいほどの巨大津波被害を引き起こした。死者行方不明者合わせて2万人以上。家屋の損壊20万戸以上。復興には数十年がかかると思われた。
 見渡す限りの瓦礫の平原。動く者はすべて被災者。泣き叫ぶ子供や老人たち。折悪く雪まで降って来た。季節は冬。春はまだ遠い。インフラは壊滅。救援物資も寸断された交通網のためまだ何も届かない。避難所にはあふれかえる避難民たち。
 僕は迫り来る夜の恐怖に震えながら、元自宅だった廃墟の前に立ち尽くしていた。

「父さん、母さん、舞彩(まい)……」

 会社員の父と専業主婦の両親は今日、僕の卒業式に来てくれていた。とても優しく、子ども思いの両親だった。
 休日には近くの公園でいっしょにボールを蹴ってくれた父。
 料理上手で、試合があるとどんなに朝早くても、どんなに遠くても送ってくれて、美味しいお弁当を作ってくれた母。
 僕はそんな両親のもとで何不自由なく育ち、春からは地元の県立高校に進学して大好きなサッカーを続ける予定だった。
 小学5年生の舞彩は活発で明るく、誰にでも好かれる子だった。よくケンカをしたけれど、次の日には「お兄ちゃん、お兄ちゃん」と何事もなかったかのようにくっついてきた。
 どこにでもある普通の家族。それでいてかけがえのない大切な家族。

 津波は僕からそんな家族を一瞬で奪い去った。
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