シリアル・ホラー
「よーし、じゃあ課題集めるぞ」

 数学の東山がそういうと、生徒たちはガヤガヤと課題を提出し始めた。1校時目の数学では、昨日出題された課題提出だったのだ。

「まこと、結局間に合ったのかよ」

 ゆうじが声を掛けてきた。朝のおかしな感じは微塵もない。

「ああ、なんとかな」
「森山!」

 東山がゆうじを呼んだ。

「はい」
「なんだよこれは。全然やってねぇじゃねぇか!」
「え?」

 東山が課題として出された問題集のページをペラペラとめくる。課題として出された13ページから16ページの4ページ分は、東山の言う通り真っ白だった。

「やべっ! ページ間違えた!」
「あはは、なにやってんだよゆうじ」
「お前17ページから20ページやってあんじゃん」

 みんなは笑うが、東山は渋い顔をしたままだ。

「森山、お前放課後居残りな」
「えええ~っ! 今日はまずいっすよ。俺今日早く帰れって母ちゃんに言われてんすよ」
「家庭の事情があるなら、ちゃんと課題をやっとけばよかったんだ。オレは言ったはずだ。課題を忘れたら居残りだってな」

 ゆうじの顔が次第に曇り始める。

「まじかよ……」

 ゆうじは東山を暗い表情でじっと見つめていた。



「じゃあな、ゆうじ」
「がんばれよ」

 数学の問題集を机の上に出しているゆうじへ、みんなが声をかけていく。ゆうじは窓際の自分の席で、机の上の問題集の表紙をじっと見つめている。僕はそんなゆうじを見て、なんとなくかわいそうになった。

「ゆうじ」

 ゆうじは机の上を見つめたままだ。そこで気づいた。
 ゆうじはまったく瞬きをしていない。

「ゆうじ」

 数学の問題集をじっと見つめたまま、まったく瞬きをしない。逆に僕は、何度も瞬きをしてしまう。まるで僕の目が乾いてしまったかのように。

「ゆうじ!」
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