シリアル・ホラー
「こんなところから飛び込んだらお前、一瞬のうちに粉々になっちまうぞ」
「……」

 僕はいっしょに崖下を覗き込むと、首を横に振った。

「僕は…… 生きていてはいけないんだ」
「どうして?」
「みんな…… 死んじまった。父さんも母さんも舞彩も。友達や近所の人もたくさん死んだ。なのに僕だけは生き残っちゃった」
「お前……」

 ヨウジは厳しい目つきで僕を睨んだ。

「それ、本気で言ってんのかよ。バカか? 本当にお前はバカだ。死ねよ、いや死ぬな」
「バカバカってうるせぇな。しかもどっちだよ」

 僕が苦笑すると、ヨウジは真剣な顔で僕をまっすぐと見つめた。

「生きたくても生きられなかったやつのこと考えろよ」

 僕はなにも言えなくなって俯いた。

「……そうだな」

 そう言って顔を上げた時、すでにヨウジはいなくなっていた。

「生きなきゃ…… な」



 あれはヨウジの幽霊だったのだろうか。それとも、追い詰められた僕の心が見せた幻影だったのだろうか。今となっては、もうわからない。ただ一つ言えることは、あの時ボクが死ななかったことで、助かるはずの命が無駄に消えていっているということだ。

「いや…… やめて……」

 ボクは無造作にナイフを突き出す。柔らかい腹部に、鋭いサバイバルナイフが抵抗もなくすっと吸い込まれる。僕はこの瞬間が大好きだ。一つの命が僕の手で消えていく瞬間。一つの命が、赤い血だまりとなって流れ出ていく瞬間。

「もっと…… もっと……」

 僕は奪い続ける。父さんや母さん、舞彩たちのため。
 あの時なくなったたくさんの人たちのため。
 命を無駄に消費し続ける、今の世の中に警鐘を鳴らすため。

「みんな…… もっと仲間を増やしてあげるからね」

 ヨウジはもう、僕の前には現れない。



―― 了 ――
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