シリアル・ホラー

５ 丸夫くん

「おい、丸夫！」

　教室にベチンと大きな音が響く。丸夫くんが殴られた音だ。

「なぁ～にぃ～？」

　まるでスローモーションで再生したかのような、間延びした声が続く。またバシンという音がした。

「いぃ～たぁ～いぃ～よぉ～」
「ギャハハハハッ！」

　井伊野丸夫（いいの まるお）は、いじめられっ子だ。宇野第三小学校の３年３組、出席番号３番。太っていて動きは遅く、頭も悪い。簡単な漢字も読めないし、低学年の算数もできない。まだかけ算も全部覚えていないらしい。そんな丸夫くんがクラスの陽キャたちからバカにされるのは、クラス替えをしてすぐだった。

「やぁ～めぇ～ろぉ～よぉ～」

　今は前の図工の時間に作った粘土が下手くそ過ぎるという理由で、いじめられていた。

「バァカ！　これがゾウに見えるかよ！」
「デブったウサギにしか見えねえし！」

　ギャハハ笑いと丸夫くんの後頭部を叩く音が連続する。丸夫くんをいじめる陽キャたちは、３人。
　スポ少で野球をしている野村和志（のむら かずし）。身体が大きく、男子のリーダーだ。いつも外で練習しているから、肌は一年中真っ黒に日焼けしている。力もあって、腕相撲では大人にさえ勝ってしまうほどだ。
　野村くんにいつもくっついている山本達也（やまもと たつや）。大きな塾を経営している家で、お金持ちだ。自分でいつも「ボクってセレブだから」と言っている。私たち女子はいつも陰で「ナルシ」と呼んでいる。狐目で見た目ずる賢そうなんだけど、本当にずる賢い。この間先生に丸夫くんをいじめている場面が見つかりそうになった時、ペラペラと誤魔化していた。とにかく口が上手い。
　３人の中では丸夫くんいじめにあまり関わらないけど、丸夫くんがいじめられているところには必ずいて、黙って見ている真木瑠人（まき るいと）。みんながいる前じゃ黙っていて大人しいからみんな誤解しているけど、実はこいつが一番ヤバい。