シリアル・ホラー
「は、入っちゃっていいのかな?」

 まりちゃんが昌樹くんの陰に隠れて、廃工場の中を覗いている。草ぼうぼうの広場があって、その奥に茶色い錆だらけの工場の壁があった。
 もともとはグレーの壁だったみたいだけど、錆でほとんど茶色になっている。小さめの窓が壁のかなり高いところに並んでいるけど、中のガラスはないから窓というより穴だ。
 横にはシャッターが開いた状態の入り口があって、中が見える。中にはなにに使うのかわからない機械が並んでいて、それも錆で茶色くなっている。
 特に人気はなかった。

「誠二くんは先生に言いに行ったんだよね」
「ああ、たぶんな」
「だから先生、今日一日来なかったんじゃない?」

 誠二くんというのは、朝先生に廃工場のことを言いに行った男子だ。

「じゃあ、なんで警察とかいないの?」
「そんなの知るわけないじゃん!」
「だ、だよね。ごめん」
「ある意味ラッキーじゃね? あいつら探せるし」

 佐々木くんがそう言って、鎖を跨いだ。

「さ、佐々木くん、入っちゃって大丈夫? なんだっけ? “ふほーしんにゅう”とかになっちゃうんじゃない?」
「大丈夫だよ。すぐに出ればいいんだから」
「そういうもんなの?」
「そういうもんだって」
「ねぇ、美里ちゃん、さっきからなにもしゃべんないけど、怖いの?」

 まりちゃんが心配そうに見てくる。私は首を横に振った。

「大丈夫」
「じゃあ行こうぜ」

 昌樹くんも鎖を跨ぐ。私とまりちゃんは鎖を潜って中に入った。
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