シリアル・ホラー
 翌朝、ボクはいつもより早く学校へ向かった。昨夜はほとんど眠れなかった。サラリーマンを刺すゆうじの表情のない顔が、記憶から離れなかったからだ。
 刺されたサラリーマンのことは、ニュースにはなっていなかった。もしかしたら死なずに、ケガで済んだのかもしれない。でも、きっと警察は犯人を捜しているはずだ。
 誰かに見られていたかどうかはわからない。近くに人はいなかったけれど、ボクも周囲を注意して見ていたわけではない。通報されていたら、きっとゆうじはもう捕まってしまっているはずだ。

「よお」

 いつもの交差点で、ゆうじが普通の顔で待っていた。制服に鞄。いつもの格好だ。

「ゆうじ」
「いやぁ参ったよ。昨日ネット繋がんなくってさぁ」

 まったくいつもと様子が変わらない。あんなことをしたのに。

「ゆ、ゆうじ、昨日のことだけど」
「ああ~っ!」

 いきなりゆうじが走り出した。

「昨日まことを睨んだおっさん!」

 ゆうじはカバンから包丁を出し、前を歩く中年サラリーマンに背後から飛びかかった。そしてそのまま後頭部に包丁を突き刺した。

「ぶはっ!」

 顔のまん中から包丁の先を突き出したサラリーマンが、そのまま倒れた。僕は絶句しながら立ち尽くしていた。
 一体目の前で何が起こっているんだ?
 周りだってたくさん人はいる。ゆうじが刺したサラリーマンのすぐ横を、OLさんらしい女の人が普通に歩いて行く。
 でもゆうじがサラリーマンを殺す様子を見ても、誰も何も言わない。悲鳴や叫び声さえ出ない。
 みんな普通に、日常が続いていく。

「よっし!」

 返り血のついた顔で、ゆうじが立ち上がった。包丁をカバンにしまいながら、笑顔を僕に向けた。
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