推しにおされて、すすむ恋
だけど――


「だから気にしないでね。ゆのが俺を向いてくれるよう、これから頑張るから」
「まっ!」


伸ばした手は、一秒だけ遅くて。
私の手に気付かなかった玲くんは、くるりと向きを変え、私に背中を見せる。

そして一歩、また一歩と。
私から遠ざかって行った。


「玲くん……」


〝また〟だ。
私ってば、また自分の気持ちを正直に言えてない。

クラスの人にも「ノアが推し」って言えなかったし。
玲くんとお姉ちゃんが付き合ってるって勘違いしてた時も、お姉ちゃんに「玲くんが好き」って言えなかった。

宣戦布告する度胸さえなかった。玲くんにあれだけ焦がれておきながら、身を引く方法しか思いつかなかった。

恋が終わる最後に告白だけでも、とも思わず、そもそも「玲くんを好き」って気持ちをなかったことにした。


「(なんて、情けない……)」


自分の気持ちに、ずっと蓋をし続けて。
本音を隠して、誰にも見せないで。

それで一体、何が残るの?

玲くんは、あんなにも真っすぐ想いを伝えてくれた。ちゃんと私の目を見て、話してくれた。

そんな玲くんに、私は何も返さないの?
遠ざかる背中を、ずっと見つめるだけ?

いつか玲くんが言ってくれた、あの言葉。



『Neo‐Flashのノアは、〝人に話して共感されない〟ような男なの?』

『俺はさ、小鈴さんが大事にしてるものを、堂々と話せばいいと思うよ』



あの言葉さえ、聞かなかったことにするの?
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