推しにおされて、すすむ恋

「そんなの、嫌――!」


足に力を入れ、グンッと前へ走り出す。玲くんの背中に手を伸ばし、制服を、つかんだ。


「れ、玲くん!」
「わっ、ゆの?」


どうしたの?と、体ごと向きを変えてくれる玲くん。そんな彼の両腕を、今度こそ離れて行かないよう、しっかり握った。


「わ、私の気持ち、聞いて、ほしいの……っ」
「ゆの……うん。聞くよ」


とてもじゃないけど、玲くんの顔は見られなくて。向き合った私と玲くんのつま先を見ながら、震える手に力をこめる。

そんな私の前で、玲くんは膝を折った。下から優しく、私を見守ってくれている。

言葉が出なくて焦っても、彼は笑い、頷いてくれた。「大丈夫、待つよ」って。玲くんの心の声が、頭に流れてくる。


「(すー、はー……)」


焦らなくていいんだ。
ゆっくりでも、自分の気持ちが玲くんに伝わったら、それでいい――


バクバク鳴る心臓の速さは変わらないけど、少しだけ呼吸がしやすくなった。

私は玲くんを見たり、やっぱりつま先を見たりしながら。少しずつ、心の蓋をはがしていく。
< 142 / 152 >

この作品をシェア

pagetop