推しにおされて、すすむ恋
「そんなの、嫌――!」
足に力を入れ、グンッと前へ走り出す。玲くんの背中に手を伸ばし、制服を、つかんだ。
「れ、玲くん!」
「わっ、ゆの?」
どうしたの?と、体ごと向きを変えてくれる玲くん。そんな彼の両腕を、今度こそ離れて行かないよう、しっかり握った。
「わ、私の気持ち、聞いて、ほしいの……っ」
「ゆの……うん。聞くよ」
とてもじゃないけど、玲くんの顔は見られなくて。向き合った私と玲くんのつま先を見ながら、震える手に力をこめる。
そんな私の前で、玲くんは膝を折った。下から優しく、私を見守ってくれている。
言葉が出なくて焦っても、彼は笑い、頷いてくれた。「大丈夫、待つよ」って。玲くんの心の声が、頭に流れてくる。
「(すー、はー……)」
焦らなくていいんだ。
ゆっくりでも、自分の気持ちが玲くんに伝わったら、それでいい――
バクバク鳴る心臓の速さは変わらないけど、少しだけ呼吸がしやすくなった。
私は玲くんを見たり、やっぱりつま先を見たりしながら。少しずつ、心の蓋をはがしていく。