推しにおされて、すすむ恋
頷いた綾瀬くんを、ポーとのぼせた瞳で見る。
だって推してやまない実物のノアが、隣にいるなんて……!
「私ったら本人を前に、ノアのことを熱く語ってたんだね」
「ビックリしたけど、俺は嬉しかったよ?」
目を細めて笑ってくれた綾瀬くんに、ドキンと胸が高鳴る。あぁ、今日も推しがカッコいい……!
「私、気持ち悪くなかった?かなり熱が入っていたし」
「全然。むしろ愛を感じたかな」
「愛……」
確かに、推しに対して愛はある。
毎日欠かさず動画を見たり、SNSを追っかけたり。初めて動画を見た日から、ノア一直線だ。
「愛、ふふ。その通りかも」
「!……そうなんだ」
返事をした綾瀬くんは、まるで顔を隠すように、マスクを上げる。
「今の、〝効いた〟かも」
「きいた?」
「ううん、コッチの話」
綾瀬くんが目じりを下げて笑うと同時に、目的の駅に到着する。
各々荷物を持って立ち上がっていると、「電車とホームの間に段差がありますので、お気をつけください」とアナウンスが流れた。