推しにおされて、すすむ恋
ヤタカが指さす先には、ゆのとリムチ―。
ゆのが包丁を持っていたけど、大きなニンジンがぐるりと回り、華奢な指に刃先がかする。
「痛ッ」
ゆの、大丈夫?
声をかける俺よりも早く動いたのは、リムチ―。
急いでゆのの指をとり、自分の口へ入れる。そしてペロッと、何の戸惑いもなく血を舐めた。
「え、えぇ……⁉」
「おい、リムチー!」
「……っ」
まさかの出来事に、リムチ―を除く全員が驚きで声を上げる。……ただ一人、俺をのぞいて。
別に何気ない日常風景、のはずなのに。
目をそらすことが出来ない。
「ちょ、り、リムチー!もう、いいから!」
「なんで?包丁で切った時って、こうするんでしょ?」
「料理キライなのに、どこで勉強したの⁉」
「恋愛小説」
「「それ間違ってるから!/っての!」」
ゆのとヤタカの声が重なる。
それでも意に介さないリムチ―は「でも血は止めないと」と、再びゆのの指に口を近づけた。
「――……っ」
見ていただけの足に、力が入る。
それは無意識のことで……気づけば俺は、二人の間に割って入っていた。
「そこまで」