推しにおされて、すすむ恋


「え、まさか捻った⁉」
「いや……大丈夫」


大丈夫――と言いながら、なかなか立ち上がらない。綾瀬くん、本当は痛いんじゃ……。

心配していると、綾瀬くんは「よし」と。すっごーく長い深呼吸をして、決心して立ち上がる。


「ほら、大丈夫」
「えぇ……」


ほら、と自信満々に言われても、顔の横にきらりと光る冷や汗を見つけてしまう。

本当は捻って痛いのに、無理して立ってるんだ!


「綾瀬くん、ちょっと待ってて!」
「え、小鈴さん!」


バビュンと音がするほど砂埃をあげ、猛スピードで近くのコンビニへ駆けこむ。そして湿布とテーピングを買って、綾瀬くんの元へ戻る。

「えぇっと」スマホで動画を見ながら、テーピングを巻いて行く。

少し赤くなってる。腫れなきゃいいな……。


「テーピング下手でごめんね」
「迷惑かけて本当にごめんね」

「え?」
「ん?」


わあ、言葉が全部カブっちゃった!

もう一度「ごめんね」と言って見上げると、すぐ近くに綾瀬くんの顔があった。切れ長の瞳の中に、驚いた私が写っている。

そんな私を見て、綾瀬くんは「すごい顔」と。くしゃりと表情を崩し、無邪気な笑顔を浮かべた。

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