恋風撫でる頬

「目、閉じて」
と、息だけの声で囁かれて。



返事をする代わりに。

ぎゅっと目をつむる。



「可愛い」
と、まぶたの向こうで、恭介くんが笑ったことがわかった。



そのすぐあと。

唇にあたたかい感触があった。



(私……、キス、してるんだ……)



……恭介くんにちゃんと伝わるといいな。

こんなに好きなんだよって。

パワーが届けられるなら、いっぱい届けられたらいいなって。



こんなに幸せな気持ちにしてくれて。

ありがとうって。



恭介くんの唇が離れたから。

目をそっと開けてみる。



目の前の好きな人が。

幸せそうな顔で。

私を見つめていた。






そして。



「……りんご」
と、呟いた。



「えっ?」



私の鼻の頭を指でトンッと触り、
「りんご」
と、恭介くんが笑う。



(そんなに鼻の頭、赤いのかな)



私はわざとしかめっ面を作り、
「……ごりら」
と、返事をする。



寒いからじゃないよ。

気持ちが溢れているからだよ。

恭介くん、わかっているのかな?
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