恋風撫でる頬
至近距離に彼の顔があって、心臓が飛び跳ねた。
彼は、私が持っていたつまようじに刺してあるからあげを、パクッと食べる。
「!!」
美味しそうな顔をして、もぐもぐと咀嚼した後に、満足そうにもう一度私を見た。
「ご馳走様でした」
いたずらっ子みたいにニッコリ笑って。
彼は、
「じゃあ、妹を探してくるね」
と、背中を見せる。
(今度こそ、行っちゃう……)
本当は。
練習試合の時のこと、覚えてくれているのかな、とか。
名前を教えてほしい、とか。
恋人がいるのかな、とか。
気になることはたくさんあった。
だけど、去って行く背中を見ているだけで。
私はまた、何にも言えないでいる。
「美春?」
と、章二くんの声がする。
すると、優里亜ちゃんが言った。
「美春、追いかけてきな!」
「えっ?」