恋風撫でる頬
「行こっか」と、恭介くんが歩き出した。
私も並んで歩く。
映画館までは、ここから10分くらい歩く。
恭介くんは、
「映画、何が観たい?」
と、尋ねてきた。
「えっ、えっと……」
恭介くんの観たいものを一緒に観るんだ、と思い込んでいたから。
私は自分の観たい映画を考えずにやって来てしまった。
恭介くんの観たい映画で!と、言いたいけれど、それだと私は今日を楽しみにしていなかったように思われてしまうのかな……。
(なんて返事すればいいんだろう……)
沈黙が流れる。
(早く何か言わなくちゃ)
だけど私の意見や気持ちを言ったら、恭介くん、嫌じゃない?
ウザかったりしない?
……嫌われたくない。
でも、このまま沈黙が続いてしまうと。
それはそれで嫌われそう……。
「美春ちゃんはさー」
「!!」
突然沈黙を破られて、肩がビクッと震えた。