恋風撫でる頬
「えっ、知っているの? さっきの人のこと」
思わず尋ねると、章二くんは少し黙ってから、
「そんなには知らないよ。ただ、三年生ってことは知ってるだけ」
と言い、
「……何? 恋でもしちゃった?」
なんて、意地悪な顔をする。
私は何も言えずに黙ってしまう。
そんなにバレバレなんだろうか。
だったら、恥ずかしい……!
「やめとけば?」
と、章二くんは言う。
「あの人、めっちゃイケメンじゃん。多分、可愛い恋人がいるって。美春なんて振られちゃうぞ」
「…………」
「……じゃ、オレ、あっちの片付けに行くわ」
気まずそうに章二くんが私から離れて行って、私はひとり、そうだよね、と思った。
そうだよね?
あんな素敵な人なら恋人くらい、いるよね?
風がまた吹いた。
生ぬるい風が、私の髪の毛をぐしゃぐしゃにしていく。
まるで私の気持ちまで掻き乱すように。
(フタをしよう)
そう思った。
(この気持ちにフタをすればいいじゃん)