太陽に手を伸ばす少女
#1
キオクソウシツ
「ほ、本当に私今日からここに住むんですか!?」
「なんだよ?ここ気に入らなかったか?」
「あ、いや、そうじゃないけど…」
数ヶ月前、不慮の事故に遭ったらしい私。
目を覚ますと私が居たのは病院のベッドの上で、その事故の記憶どころか自分の名前すら覚えていなかった。
所謂、“記憶喪失”というものだ。
『今日から住む家を手配したから』
と、退院早々に言われ何も理解していないまま連れてこられたのは高層マンション。
…記憶がない私にだって分かる。
ここは高級住宅街。住める人も限られてくるような場所。
ドアを開けるとそこにはまさに高級ホテルのような内装の部屋が広がっていて腰が引けた。
「……しかも一人暮らしだなんて、」
「大丈夫だろ。お前今まで一人暮らしだったし」
…だからその“今まで”の私 は“今”の私からしたら未知なんだって。
「ふはっ、大丈夫だって。たまに様子見に来てやるから」
「……いや、あの、」
「あ、わり。俺この後仕事あっから。じゃあな」
「えっ!?ちょ、久住さん!?」
彼の名前は久住 真さん。
病院で目を覚ました時、唯一この人が私の傍に居た。
久住さんは私の事を知っているらしく、何も覚えていない私について色々教えてくれた。
どうやら私の名前は羽宮 ツキというらしく、私にとって久住さんは『俺はお前の保護者だ』と言っていた。