太陽に手を伸ばす少女
□□□


「じゃあ、さようなら。積木麟太郎」


もう2度と会う事はないだろう。


「……もう麟くんって呼ばねぇの?」


苦笑いで笑う彼。
やっぱり、こちらの世界に来るべきではない。


「私はもう、羽宮ツキじゃないから」


どうか私の事は忘れてこの先を生きてほしい。
何か言いたげな彼に背を向け、近くに停めていた車へと向かう。

今日に限って晴れていて、窓からは太陽の光がサンサンと差し込んでいる。


「ルナ?どうした?」

「空」

「空?何か飛んでる?」

「太陽がある」

「ん?」


ぶくぶくと溺れていく感覚を、黒く染まっていく感覚を知るのは私達みたいな汚れた人間だけでいい。
自ら味わいに行くのは死に直結する。

彼を見ていると、今まで自分がやって来た事全てを棚に上げて放り捨てて明るいところへと行きたくなる。

何も知らずに太陽に手を伸ばし純粋な毎日を過ごした日々はいつか記憶から薄れていくだろう。
いや、今の私にとっては塗り潰した方がいい。


「なんでもない。早く帰ろう、明るすぎて目が痛い」


私が太陽に手を伸ばす事は許されない。



END


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