太陽に手を伸ばす少女


「っ、久住さん!大丈夫でしたか!」

「……兼本、お前何やってたんだよ」

「いや、俺なんかに戦う事なんか無理ですよ」

「こんな所で暴力沙汰なんて起こしたら若から殺されるわ」

「あ、それもそうか」

「そんな事くらい、あいつも分かってんだよ」


なるほど、と納得している兼本を見て甘やかし過ぎたかもしれないとため息が出た。
……いつかこいつに見殺しにされそうだ。

兼本を車に戻らせ、マンション内へ足を踏み入れる。
インターホンを押すとツキの明るい声がエントランスに響き、自動ドアがゆっくりと開いた。

そういえば、ツキも昔は縹のように黒い服を好んで着ていた。



『もっと赤とか、色々着たらいいのに。お前ならなんでも似合うだろ、今度買いに行こうか』

『勘弁して、私にはそんなの似合わないから』



黒が落ち着く。暗い所が好き。
騒がしい所よりも静かな場所が好き。
それなのにツキの周りはいつも騒がしく、それをツキは満更でもなさそうな表情で文句を言っていたのが忘れられない。


「…チッ」


記憶を取り戻して早く思い出して欲しいのに、今のまま何も知らずに普通の日常を味わってほしいとも思う。

大概、俺は人に甘いのかもしれない。


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