太陽に手を伸ばす少女
若の話には1人の女性がよく登場する。
その人は気高く美しくて強く、そして弱かったと。
胸ポケットに入れていたスマホがバイブで震え出したのはその時だった。
「出ていいよ」
「すみません」
スマホに表示されたのは珍しくツキの名前で、若の許可を貰い電話に出る。
「…もしも、」
『ツキ!!』
電話口から聞こえたのはツキの声ではなく、焦っているような縹の大声だった。
「…おい、何があった?ツキ?どうした、答えろ!」
そしてそのままツキの声は聞こえる事なく、ガチャンッという派手な音を最後に電話は切れた。
「…何が、」
「どうした?何かトラブル?」
「あ、いえ…。すみません、しばらく席を外してもいいですか」
「まぁ、うん。いいよ、別に」
「ありがとうございます。失礼します」
サッと頭を下げ、若の部屋から出た瞬間にツキに電話を掛け直した。
『お掛けになった電話番号は……』
でも聞こえてくるのは無機質でテンプレートなアナウンス。
嫌な予感がして冷や汗が背中を伝うのが分かる。
「あれ、久住さん。もうお話終わったんですか?それなら今から飯でも…」
「兼本、車出してくれ」
「え?」
「分かんねぇけど、ツキが危ない」