太陽に手を伸ばす少女
「こんな高級住宅街に住んでんのも違和感があるし、あの背中も……」
「家が裕福なんだろうよ」
「はぁ?じゃああの背中はどう説明すんだよ」
「シールとか?」
「ふざけんな!!」
「今どきのやつクオリティすげぇじゃん」
いつしか男はニヤニヤ笑って俺の質問に淡々と答えている。
腹立たしいのは、こいつに聞かないと俺は羽宮の事を何も知らないという事だった。
どこかの街に夜を支配している謎の組織がいると聞いた事がある。
その正体は誰も知らず、殺しを中心に薬、暴力、犯罪全てを担う組織。
「【夜烏】」
「…」
「って、知ってるか」
「……さぁ?何だそれ」
誰も正体が分からないのは、知られたら即殺すから。
ただ、そこの頭は女であり女神のように崇拝されていると噂で聞いた。
…雨宿りの時、俺に背中を向けたそこにはインナーから少しだけ覗く黒い絵柄のようなもの。
それは多分、背中いっぱいにあるんだろう。
俺が知っている羽宮からは到底想像出来ないモノ。
「……あまり近寄らない方がいい。記憶を失くす前のツキと今のツキは真逆だからな」
「…」
「じゃねぇとお前、記憶が戻ったら殺されるぞ?」
ぐん、と顔を近づけニッコリと笑って見せた男。
カカオと煙草の混ざった匂いがした。