あのね、わたし、まっていたの ～誰か声をかけてくれないかなって～ 【新編集版】

プロローグ～辛い日々

　　　　　　　◇　プロローグ　◇

「サッカーだけの中学ってないかな？」
「野球だけの中学ってないかな？」
「陸上だけの中学ってないかな？」

　6年生になった時、勉強が大嫌いな大柄の男子三人が集まって、夢みたいなことを話していた。

「お前はいいよな、勉強ができるから」

　三人は羨ましそうにわたしを見た。

「俺たちバカだから」

　自嘲気味に吐き捨てた。

「そんなことないよ。やればできるって」

　4年生の時、彼らに助けてもらったわたしは、今度は自分が彼らを助けたいと本気で思った。
　あの時助けてもらわなかったら今頃どうなっていたかわからないからだ。
　それほど恐ろしい経験をしたのだ。
　だからなんとしても彼らの役に立ちたかった。
　しかし、あの子たちにやる気を起こさせるにはどうしたらいいんだろう？　
　どうしたら勉強に興味を持ってもらえるのだろう？　
　と必死になって考えても何も思い浮かばなかった。
　強制させるわけにもいかないし、付きっ切りで教えるわけにもいかない。
　自分で進んで勉強したくならなければ意味がないのだ。
　
　その後も考え続けたが、これ以上考えても無理だと思って、思い切ってお母さんに相談した。
　すると笑いながら「勉強と思うから嫌になるのよ」となんでもないように言った。
　
「えっ？」

　意味がわからなかった。

「貴真心(きまこ)は勉強のために本を読んでいるの？」

「ううん」

「本が好きだから読んでいるんでしょ」

「そう」

「だったら同じよ」

　えっ、同じ？　

　でもそんなことを言われてもよくわからなかった。
　
　お母さんは何を言いたいのだろう？
　
　一生懸命考えたが、まったくわからなかった。
　それでも、なんとかしたかった。
　助けてもらったお返しをしたかった。
　もしあの時助けてくれなかったら不登校になっていたかもしれないのだ。
　その時のことを思い出すとぞっとした。
　しかしぞっとしただけでは済まなかった。
　寒田(かんだ)と黄茂井(きもい)の顔が浮かんでくると、一瞬にして心が凍った。