あのね、わたし、まっていたの  ~誰か声をかけてくれないかなって~ 【新編集版】
       ◇ 再始動 ◇

「信じられない……」

 わたしと丸岡と鹿久田は同じ言葉を同時に発した。
 夏島家を辞して駅へ向かう道すがら、夏島と秋村から聞いた言葉を現実のものとして受け止められないでいた。
 夏島が校長で秋村が教頭なんてあり得ないのだ。
 しかし、間違いのない事実だった。
 夢みたいな本当だった。
 わたしはさっき聞いた夏島の言葉をもう一度蘇らせた。
 
「秋村さんから中学教育の重要性を説かれた時、そして、秋村さんが教頭で支えると言ってくれた時、俺の最後のご奉公はこれしかないと悟った。スポーツ界だけでなく、教育界に、そして、ひいては日本という国に恩返しができる、そんな気持ちが湧いてきた。明日を担う若い人たちの個性を伸ばすと共に、心身共に健康な人格を形成するための一助になりたいと」
 その時強く頷いた秋村の言葉も蘇ってきた。

「未知の領域への挑戦をさせていただくわ。心が決まったら、中学教育を根本から変える新しい取り組みができることにワクワクしてきたの。夏島さんと二人で必ずやって見せる、そんな気持ちでいっぱいなの」

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