あのね、わたし、まっていたの  ~誰か声をかけてくれないかなって~ 【新編集版】
 説得力のある力強い発言に私は思い切り頷いたが、教員代表は違っていた。
〈現場のことを何も知らないくせに〉というような表情が浮かんでいた。
 温守もそれに感づいたようだったが、それで話の流れを変えることはなかった。
 
「荒れている公立中学校の原因の多くが教師です。校長、教頭を含む教師団です。彼らの努力不足のために、授業に興味を持てない生徒、疎外感を持つ生徒、落ちこぼれる生徒が増え、その()け口がイジメや暴力に繋がっているのです。それに、ルールを守らない生徒に対して注意できない情けない教師もいっぱいます。公立中学校の現場は目を覆いたくなるほどの状態になっているのです」

 そこで一旦話を切って、教員代表の方に顔を向けた。
 
「ただ、教師の負担が大きいことも問題だと考えています。授業だけでなく、生徒への生活指導や膨大な事務処理に忙殺されています。不登校や虐め、保護者への対応など、精神的にきつい仕事を日々こなさなければなりません。加えて、部活動への関与があります。放課後だけでなく、休日も潰れてしまうのです。明らかに過重労働です。一か月当たりの時間外勤務は100時間を超えているというデータもあります。これは過労死の危険に(さら)されている教師が少なくないということを意味しています。公立中学校の教師はへとへとなのです」

 すると、さっきまで顔をしかめていた教員代表の委員が同調するように声を上げた。
 
「仰る通りです。精神を病む教師、体調を崩している教師は少なくありません。『もう限界だ』『死にたい』という嘆きを聞いたこともあります」

 温守が大きく頷いてから話を引き取った。
 
「今回申請されたスポーツ専門中学校では、教科を担当する教師は部活動から解放されます。放課後や休日の監督業務・顧問業務から解放されるのです。そうなれば、授業の魅力化を考え準備する時間を確保することができます。それに、」

 教師のプライベートな時間にも問題があると指摘してから、「家族との時間をしっかり持てている教師がどれくらいいるでしょうか? 公立中学校の教師は生徒への対応に精一杯で、自分の子供と遊ぶ時間がほとんどないというのが現状ではないでしょうか。これっておかしくないですか? 父親や母親としての役割を果たすことができないで、教師としての務めが果たせるでしょうか」と問うた。
 
 その途端、委員全員の顔が一斉に曇ったように見えた。
 それは公立中学校教育が置かれている問題の深さを、それぞれが感じ取ったからに違いなかった。
 
 このあと昼食休憩に入ったが、出された弁当を黙々と食べるだけで、話し声は一切聞こえてこなかった。
 
< 131 / 173 >

この作品をシェア

pagetop