あのね、わたし、まっていたの  ~誰か声をかけてくれないかなって~ 【新編集版】
「日本のスポーツ界の底上げのためには一貫したスポーツ教育が必要です。才能のある子供をできるだけ早い時期に発掘して、能力を伸ばしていくことが必要なんです。同時に、社会性を身につけさせ、自分で考え抜ける精神力を鍛えなければなりません」

 専任の指導者がいない中学校のクラブ活動では才能が開花しないこと、学校以外のクラブチームに入ろうとすると多額の負担が親にかかること、だから、一流の専任指導者が揃う公立中学校があれば好ましいことを、飛鳥が熱心に説いた。
 すると、満を持していたように、「堅岩先生、チャンスです」と三角が体の前で両手をぐっと握った。
「スポーツ教育に、いや、公立中学校教育に大きな一石を投じるチャンスです。それもこの夢開市で始められるのです。こんな幸運、一生に一度有るか無いかです。先生!」

 その勢いを利用するかのように飛鳥が後押しをした。

 「荒廃した学校の立て直しが喫緊の課題であることは承知しています。しかしいくら手を打っても、校長を始めとした教職員の意識が変わらなければ問題解決には繋がらないのではないでしょうか。既存のシステムを温存したままで虐めの問題を解決するのは難しいと思うのです。だからこそ抜本的な対策が必要なのです。教育長のお立場は十分理解していますが、ここは柔軟に考えていただけないでしょうか。どこが主導権を握るかというレベルを超えて、オール夢開市で取り組んでいただけないでしょうか。スポーツ庁も全面的に支援させていただきますので」

 そして体を前に乗り出し、声を強めた。
 
「教育特区を活用したスポーツ専門中学校を成功させ、虐めのない学校運営を実現させると共に日本スポーツ界の未来を切り開きましょう」

 しかし、堅岩は表情を変えなかった。
 イエスともノーとも言わなかった。


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