あのね、わたし、まっていたの  ~誰か声をかけてくれないかなって~ 【新編集版】
       ◇ 堅岩拳剛 ◇

 突然の訪問者を見送ったあと、堅岩は心の中で呟いた。
「そんなに簡単に説得されるわけにはいかない」と。
 例え次期スポーツ庁長官や可愛い教え子の依頼だとしても、頭越しに決められた筋の通らないことに同意するわけにはいかないのだ。
 教育は堅岩の人生そのものであり、不可侵の領域なのだ。
 それを土足で踏み込まれるような今回のことは許せなかった。
 政治家や役人が勝手に決めたことをハイハイと聞くわけにはいかないのだ。
 己の信念を曲げるわけにはいかないのだ。
 しかし、二人の説得に何故か心が動かされているという不思議な感覚を否定することもできなかった。
 堅岩は訪問者が出ていったドアを見つめて大きく息を吐いた。

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