あのね、わたし、まっていたの  ~誰か声をかけてくれないかなって~ 【新編集版】
 その週末、堅岩は自宅に籠って飛鳥と三角の言葉を何度も反芻した。
 気になって頭から消えなかったからだ。
 ソファに座り、腕組みをして、彼らの言わんとすることを考え続けた。
 
 う~ん、
 
 唸ってから立ち上がって、机の引き出しから1枚の紙を取り出した。
 それは、教育文化省が作成した『教育委員会制度の概要』だった。
 そこには、教育委員会制度の意義が記されていた。
 ① 政治的中立性の確保
 ② 継続性、安定性の確保 
 ③ 地域住民の意向の反映
 
 紙を裏返した。
 具体的な業務内容が記されていた。
 『学校教育の振興』
 『生涯学習・社会教育の振興』
 『芸術文化の振興、文化財の保護』
 『スポーツの振興』
 
 スポーツの振興の下欄に記された4項目に目を凝らせた。
 
 ・指導者の育成、確保
 ・体育館、陸上競技場等スポーツ施設の設置運営
 ・スポーツ事業の実施
 ・スポーツ情報の提供
 
 う~~ん、
 
 また唸った。
 残念ながらどれも十分な取り組みができていなかった。
 首を振るしかなかったが、それでももう一度紙を裏返して、教育委員会制度の意義をじっくりと読んだ。
 『個人の精神的な価値の形成を目指す』
 『子供の健全な成長発達』
 『学校運営の方針変更等の改革・改善は漸進的なものであること』
 『地域住民の意向を踏まえる』
 
 個人の精神的な価値の形成、子供の健全な成長発達、そのどちらも期待するレベルにはほど遠かった。
 現在の学校運営を続けている限り、この意義の達成は難しいのかもしれないと思った。
 
 う~~~ん、
 
 堅岩の唸り声は深夜になっても消えることはなかった。
 
< 140 / 173 >

この作品をシェア

pagetop