あのね、わたし、まっていたの  ~新編集版~
「ひとり親家庭の子供に対する支援に使ってください」

 シーズンオフで帰国していた建十字はスポーツシューズのCMを撮り終えたあと、日本代表のチャレンジカップに出場していた横河原を誘って夢開市役所を訪ね、桜田に封筒を手渡した。寄付金の目録だった。

「貧しいという理由でスポーツを諦めている子供が大勢います。その子たちに夢を与えたいのです。未来に希望を持ってもらいたいのです。ですので、このお金を奨学金として役立てていただきたいのです」

 日本においても子供の貧困率が年々上昇していた。
 それは、ひとり親家庭で顕著だった。
 その貧困率は50パーセントを超えていた。
 その結果、将来の進学機会が閉ざされるだけでなく、三食きちんと食べられないことによる健康悪化や体力低下が現実のものとなっていた。
 更に、不登校や引きこもりという問題も深刻だった。
 それだけでなく、自己否定にまでつながるという悪循環を引き起こしていた。
 それは、子供たちの将来に暗い影を投げかけていた。
 
 建十字はネットニュースでその報道を目にする度に心を痛めていた。
 だから、貧困そのものを解決できないとしても、せめて貧困が理由でスポーツを諦めざるを得ない子供に手を差し伸べられないかと考えていた。
 その想いを横河原に打ち明けると、彼は二つ返事で賛同してくれた。
 話し合った結果、恵まれている自分たちができることはなんでもやろうという結論に達した。
 そして、一人でも多くの子供たちにチャンスを与えるために思い切った額の寄付をすることに決めた。
 
 桜田にとってこれは思いもかけない申し出だったようで、目録に記載された金額を見て、信じられないというように目を見開いていた。

「ふるさと納税への協力だけでなく、寄付まで……」

 言葉を詰まらせた桜田が横にいる夏島に目録を持った方の手を伸ばすと、受け取った夏島はみるなり驚きの表情を浮かべた。
 記載されていた金額が想像を超えていたからだろう。
 建十字と横河原は2億円を寄付したのだ。
 
「ありがとう。必ずひとり親家庭枠を作って、才能ある生徒に夢を与えることを誓うから」

 夏島の目は充血していた。

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