あのね、わたし、まっていたの  ~誰か声をかけてくれないかなって~ 【新編集版】
脅迫と再生
       ◇ 脅迫と再生 ◇

 禁煙都市宣言の議会承認が得られてホッとしたのも束の間、桜田の元に1通の封筒が届いた。
 差出人の名前はなかった。
 封を切って中から折りたたまれた紙を取り出すと、ワープロの文字が睨みつけるように迫ってきた。
 
『お前の関係者の醜態(しゅうたい)写真を持っている。ばらされたくなかったら即刻辞任しろ』

 同封された写真には裸同然の男性の尻を若い女性が(むち)打つ姿が写っていた。
 しかし、男の顔も女の顔も修正され、誰かわからないようになっていた。
 
 関係者の醜態? 
 誰のことだ? 
 
 桜田にはまったく理解できなかった。
 ただの悪戯と考えて破ろうとしたが、すんでのところで思い止まった。
 何かに止められた感じだった。
 
 3日後、また手紙が届いた。

『俺は本気だ。お前の関係者の生活をズタズタにしてやる』

 猿ぐつわをした男の上にまたがって、その尻を叩いている若い女の写真が添えられていた。
 今度も顔がわからないように修正されていた。
 
 ただの悪戯ではない。
 脅迫だ。
 それも、市長選挙に関する恨みに関係しているのは間違いない。
 
 ピンと来た桜田は市長室に選対本部長を呼んだ。
 彼は写真を見るなり、「なんだこれは」と嫌悪を露わにした。
 それほど醜悪なものだった。
 
「しかし、この男と女は一体誰なんだ?」

 本部長の問いに桜田は首を振った。
 まったく心当たりがなかった。
 
「まあ、わからないようにしているんだから、わからないよな。しかし、文面が気になる。単なる脅しではないだろう。選挙戦に関係するものだとしたら、仕返しの可能性が高い。とすると、枯田か、それとも、選挙参謀か、それとも、パソコンショップのオーナーか、だが、」と腕を組んで考え込んだ。

 その沈黙にしびれを切らした桜田が「警察に届けた方が」と言いかけたところで、本部長が手で制した。

「もう少し様子を見よう。次、どんな手紙と写真が送られてくるかを見た上で決めても遅くはない」

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