あのね、わたし、まっていたの  ~新編集版~
 えっ? 
 うそっ! 
 どこにあるの?
 
 わたしは焦って思考回路がぐちゃぐちゃになったが、落ち着け! と自らに喝を入れて時間を確認した。
 閉館まであと10分ほどになっていた。
 
 ヤバイ! 
 
 慌ててもう一度急ぎ足で戻ったが、握りしめた掌は汗をかき、心臓が早鐘を打ち出した。
 
 どこなの? 
 どこにあるの? 
 
 多くの入場者が出口へ向かう中、わたしはその流れに逆らって足を速めた。
 
 展示スペースの真ん中まで戻った時だった。
 その部屋には誰もいなかった。
 と思ったら、椅子に腰かけた女性監視員の姿が目に入った。
 その途端、彼女は立ち上がり、折り畳み式の椅子を片付けて閉館に備え始めた。
 
 ちょっと待って、
 
 わたしは女性監視員の行動を止めるように前に立った。
 
「ラファエッロの絵はどこにありますか?」

 赤ちゃんを抱くようなジェスチャーで尋ねた。
 彼女は一瞬キョトンとしたような表情になったが、すぐに笑みを浮かべて右手で指差した。
 
 えっ? 
 ここにあるの?
 
 わたしは向きを変え、彼女が指し示す先を見つめた。

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