あのね、わたし、まっていたの  ~慈愛の物語~ 【新編集版】
 彼がアメリカに渡ってからは一日に何度もメールを交換した。
 ホームランを打った時は必ず電話でおめでとうと伝えた。
 彼が不振の時は連絡したいのをじっと我慢して復調を願った。
 会えないもどかしさに身悶えた時は彼の写真に口づけて、今すぐアメリカから飛んできて、と叶うはずもない願いを写真にぶつけた。
 
 彼と会えるのはオフシーズンだけだった。
 だから、寸暇を惜しんでデートを重ねた。
 彼は有名人だから誰にも見つからないようにデートするのは大変だったけれど、それでも身も心も彼と一つになる度に、わたしは幸せを噛みしめた。
 そして小学生の時からの夢、彼と結婚することに期待を膨らませた。
 
 しかし、心配事も多かった。
 なんと言っても大リーガーはモテるのだ。
 カッコいい上に大金持ちなのだから、若い女性が群れをなして襲うように飛びかかってくるのは当然と言えば当然だ。
 結婚できれば玉の輿(こし)だし、できなくてもニュースバリューは半端なく高い。
 売名行為で突撃してくる女性も多いし、中にはストーカーまがいに急接近してくる者もいる。
 それも美人でスタイル抜群の若い女性が攻勢をかけてくるのだ。
 よほどの精神力がない限りかわすのは難しい。
 特に高級な酒が振舞われるパーティーでは警戒心が緩んで、色気攻勢にNOというのは至難の業と言える。
 かつて、アメリカで超一流ゴルファーの女性スキャンダルが報道された時、超有名大リーガーの名前も取り沙汰されていた。
 誘惑が多いことが白日の下に晒されたのだ。
 
 彼は大丈夫かしら? 

 わたしはいつも心配していた。
「俺は大丈夫だよ」と安心させる言葉をいつもかけてくれていたが、遠く離れた日本で想像するのは、アメリカ美人に囲まれて鼻の下を伸ばしている彼の顔だった。

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