あのね、わたし、まっていたの ~誰か声をかけてくれないかなって~ 【新編集版】
◇ エピローグ ◇
春爛漫、これ以上はないという快晴の中、夢開スポーツ学園が開校した。
竣工したばかりの真新しい体育館で開校式典が行われ、桜田市長、堅岩教育長、夏島校長が次々と壇上に上がった。
そして、来賓の祝辞や祝電の紹介が終わったあと、野球、サッカー、陸上、卓球、柔道の5部門で選抜を受けて入学した生徒たちにサプライズ・プレゼントが贈られた。
三人の大スターが壇上に上がったのだ。
体育館は騒然となり、歓声が鳴り止まなかった。
その三人とは、大リーグのチームで4番を任されている建十字、ヨーロッパの名門サッカークラブでキャプテンマークを腕に巻く横河原、そして、マラソンで日本新記録を出した奈々芽だった。
大リーグが開幕しているにもかかわらずオフ日と時差を利用した強行スケジュールで駆け付けた建十字がマイクの前に立つと、騒然としていた会場が一瞬で静寂を取り戻した。
「皆さんには無限の可能性があります。それを信じてください。皆さんには夢に向かって羽ばたく勇気があります。それを信じてください。皆さんは困難なことを乗り越える意志を持っています。それを信じてください。そして、どんなことがあっても、未知の領域へ挑戦することを躊躇わないでください」
生徒たちは頷くと共に一言も聞き漏らすまいと耳をそばだてているようだった。
「大リーグへ行くのは止めた方がいいと言われました。通用しないと言われたこともありました。そのアドバイスの多くは親切心からだったと思います。ありがたいことだと感謝しています。しかし、私の人生は私自身が切り開かなければなりません。困難だからと言って尻込みするわけにはいかないのです」
会場は水を打ったように静まり返った。
「たった一度の人生です。後悔したくはありません。やると決めたらやるのです」
そして力強い声で締めくくった。
「自分を信じてください。必ずできると信じてください。そして、やり切ってください。夢を追いかけ続けてください。皆さんの未来は開かれています」
その瞬間、割れんばかりの拍手が会場を揺らした。
感動して泣いている生徒もいた。
この日を絶対忘れまいと心に誓ったような表情を浮かべている生徒もいた。
そんな熱い気持ちが伝わったのか、建十字も高揚したような表情のまま手を上げてマイクの前を離れた。
プレミアリーグの試合終了後すぐに飛行機に飛び乗って駆け付けた横河原がマイクへ向かった。
上半身はユニフォーム姿だった。
右腕にはキャプテンマークが巻かれていた。
「夢は叶います。諦めなければ必ず叶います」
彼の言葉に生徒たちはピンと背筋を伸ばした。
「ヨーロッパの強豪チームに移籍するのは私にとってとても大きな挑戦でした。だからいざ決断という時には本当に悩みました。夜も眠れないくらいに悩みました。しかし、」
彼はゆっくりと生徒たちを見回した。
「しかし、超一流の選手たちと競い合いたいという夢を諦めることはできませんでした。そのために歯を食いしばって頑張ってきたのです。他のことを犠牲にしてサッカーに打ち込んできたのです。ここで諦めたら今までの努力をふいにすることになります。夢を諦めるということは自分を捨てることと同じなのです」
彼はキャプテンマークを左手で握りしめた。
「夢に向かって羽ばたく勇気を持ってください。困難を乗り越える意志を持ち続けてください。諦めなければ必ず夢は叶います。皆さんの夢が叶うことを私は信じています」
右手の人差し指を高々と上げた姿に万雷の拍手が押し寄せた。
横河原は笑顔でマイクの前を離れた。
奈々芽の番になった。
彼はメダルを5個、首から下げて登場した。
その内の4つは、箱根駅伝で4連覇した時の金メダルだった。
もう1つは、マラソンで優勝した時の金メダルだった。
彼はそれを手にしてグッと前に押し出した。
「日本新記録、やったぜ!」
会場に祝福の歓声と拍手が鳴り響いた。
「ありがとう」
奈々芽の声で静寂が戻ってきた。
「マラソンは42.195キロを走る過酷なレースです。まるで人生のような長丁場です。山あり谷あり、2時間のレースの中に数多くのドラマがあります」
そこで声のトーンを落とした。
「2時間のレースの間誰と戦っているか、実は、誰とも戦っていません。マラソンは誰かと競争するスポーツではないのです」
生徒に考えさせるかのように僅かな間を置いて、再び口を開いた。
「マラソンは自分と戦うスポーツなのです。もちろん、他の選手との駆け引きはあります。しかし、そんなことは些細なことでしかありません」
彼は自らの胸に手を当てた。
「2時間の間戦っている相手は、弱気な自分、挫けそうになる自分、諦めたくなる自分なのです。もう駄目だと思う自分なのです」
右手でマイクを掴んだ。
「何かを成し遂げるためには強い気持ちを持つことが必要です。自分の弱さに打ち勝つ強い気持ちです。ここぞという時に踏ん張れる強い気持ちです」
左手でメダルを掴んで会場の方へ突き出した。
「自分の弱さに勝ってチャンスを掴んでください。強い気持ちで未来へ踏み出してください。皆さんの光輝く未来を私は信じています」
彼が言い切った瞬間、生徒が全員立ち上がって拍手をした。
つられるように親も教師も拍手をしながら立ち上がった。
スタンディングオベーションだった。
応えて奈々芽も会場に向かって力強い拍手を送った。
再び壇上に戻った建十字と横河原が奈々芽の肩を抱いて大きく手を振ると、地鳴りのような歓声が三人を襲った。
いつまでも拍手が鳴り止まなかった。
そんな中、建十字がマイクを握った。
その途端、会場はしんと静まり返った。
春爛漫、これ以上はないという快晴の中、夢開スポーツ学園が開校した。
竣工したばかりの真新しい体育館で開校式典が行われ、桜田市長、堅岩教育長、夏島校長が次々と壇上に上がった。
そして、来賓の祝辞や祝電の紹介が終わったあと、野球、サッカー、陸上、卓球、柔道の5部門で選抜を受けて入学した生徒たちにサプライズ・プレゼントが贈られた。
三人の大スターが壇上に上がったのだ。
体育館は騒然となり、歓声が鳴り止まなかった。
その三人とは、大リーグのチームで4番を任されている建十字、ヨーロッパの名門サッカークラブでキャプテンマークを腕に巻く横河原、そして、マラソンで日本新記録を出した奈々芽だった。
大リーグが開幕しているにもかかわらずオフ日と時差を利用した強行スケジュールで駆け付けた建十字がマイクの前に立つと、騒然としていた会場が一瞬で静寂を取り戻した。
「皆さんには無限の可能性があります。それを信じてください。皆さんには夢に向かって羽ばたく勇気があります。それを信じてください。皆さんは困難なことを乗り越える意志を持っています。それを信じてください。そして、どんなことがあっても、未知の領域へ挑戦することを躊躇わないでください」
生徒たちは頷くと共に一言も聞き漏らすまいと耳をそばだてているようだった。
「大リーグへ行くのは止めた方がいいと言われました。通用しないと言われたこともありました。そのアドバイスの多くは親切心からだったと思います。ありがたいことだと感謝しています。しかし、私の人生は私自身が切り開かなければなりません。困難だからと言って尻込みするわけにはいかないのです」
会場は水を打ったように静まり返った。
「たった一度の人生です。後悔したくはありません。やると決めたらやるのです」
そして力強い声で締めくくった。
「自分を信じてください。必ずできると信じてください。そして、やり切ってください。夢を追いかけ続けてください。皆さんの未来は開かれています」
その瞬間、割れんばかりの拍手が会場を揺らした。
感動して泣いている生徒もいた。
この日を絶対忘れまいと心に誓ったような表情を浮かべている生徒もいた。
そんな熱い気持ちが伝わったのか、建十字も高揚したような表情のまま手を上げてマイクの前を離れた。
プレミアリーグの試合終了後すぐに飛行機に飛び乗って駆け付けた横河原がマイクへ向かった。
上半身はユニフォーム姿だった。
右腕にはキャプテンマークが巻かれていた。
「夢は叶います。諦めなければ必ず叶います」
彼の言葉に生徒たちはピンと背筋を伸ばした。
「ヨーロッパの強豪チームに移籍するのは私にとってとても大きな挑戦でした。だからいざ決断という時には本当に悩みました。夜も眠れないくらいに悩みました。しかし、」
彼はゆっくりと生徒たちを見回した。
「しかし、超一流の選手たちと競い合いたいという夢を諦めることはできませんでした。そのために歯を食いしばって頑張ってきたのです。他のことを犠牲にしてサッカーに打ち込んできたのです。ここで諦めたら今までの努力をふいにすることになります。夢を諦めるということは自分を捨てることと同じなのです」
彼はキャプテンマークを左手で握りしめた。
「夢に向かって羽ばたく勇気を持ってください。困難を乗り越える意志を持ち続けてください。諦めなければ必ず夢は叶います。皆さんの夢が叶うことを私は信じています」
右手の人差し指を高々と上げた姿に万雷の拍手が押し寄せた。
横河原は笑顔でマイクの前を離れた。
奈々芽の番になった。
彼はメダルを5個、首から下げて登場した。
その内の4つは、箱根駅伝で4連覇した時の金メダルだった。
もう1つは、マラソンで優勝した時の金メダルだった。
彼はそれを手にしてグッと前に押し出した。
「日本新記録、やったぜ!」
会場に祝福の歓声と拍手が鳴り響いた。
「ありがとう」
奈々芽の声で静寂が戻ってきた。
「マラソンは42.195キロを走る過酷なレースです。まるで人生のような長丁場です。山あり谷あり、2時間のレースの中に数多くのドラマがあります」
そこで声のトーンを落とした。
「2時間のレースの間誰と戦っているか、実は、誰とも戦っていません。マラソンは誰かと競争するスポーツではないのです」
生徒に考えさせるかのように僅かな間を置いて、再び口を開いた。
「マラソンは自分と戦うスポーツなのです。もちろん、他の選手との駆け引きはあります。しかし、そんなことは些細なことでしかありません」
彼は自らの胸に手を当てた。
「2時間の間戦っている相手は、弱気な自分、挫けそうになる自分、諦めたくなる自分なのです。もう駄目だと思う自分なのです」
右手でマイクを掴んだ。
「何かを成し遂げるためには強い気持ちを持つことが必要です。自分の弱さに打ち勝つ強い気持ちです。ここぞという時に踏ん張れる強い気持ちです」
左手でメダルを掴んで会場の方へ突き出した。
「自分の弱さに勝ってチャンスを掴んでください。強い気持ちで未来へ踏み出してください。皆さんの光輝く未来を私は信じています」
彼が言い切った瞬間、生徒が全員立ち上がって拍手をした。
つられるように親も教師も拍手をしながら立ち上がった。
スタンディングオベーションだった。
応えて奈々芽も会場に向かって力強い拍手を送った。
再び壇上に戻った建十字と横河原が奈々芽の肩を抱いて大きく手を振ると、地鳴りのような歓声が三人を襲った。
いつまでも拍手が鳴り止まなかった。
そんな中、建十字がマイクを握った。
その途端、会場はしんと静まり返った。