あのね、わたし、まっていたの  ~慈愛の物語~ 【新編集版】
 彼を見送ったあと、わたしは教育文化省に戻り、結婚してアメリカへ渡ることを事務局長に告げた。

「そう。よかったね。おめでとう」

 こっちが驚くほど大喜びしてくれた。

「でも、親友とは別れないよね」

「えっ? 親友って……」

 なんのことかわからなかった。

「君の親友だよ」

「……」

 首を傾げていると、「教育という名前の親友だよ」と答えを告げられた。
 それだけでなく、アメリカの大学院への留学を勧められた。
 そこは建十字が所属する球団の本拠地にあり、教育学で世界最高の権威を誇る名門大学院だった。
 
「国家百年の計は人創りにある。資源のない日本にとって、人こそ最大の財産だ。その財産を生み出すのは教育をおいて他にはない。結婚して夫を支える存在になることは素晴らしいことだが、それによって自らの使命を追い求めることを諦める必要はない。幸運と言っていいかどうかわからないが、大リーガーは遠征が多い。その間、君は有り余る時間を持つことができる。その時間を君の親友のために使って欲しい。教育という親友のために。それが君の使命だと思うからだ」

 そしてわたしの両肩を掴んで強い声を発した。

「教育は未来への投資だ。教育無くして日本の未来はない。その未来を創るのが君の使命だ。だから君は教育という親友と絶対別れてはならない。絶対にだ」

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