あのね、わたし、まっていたの  ~新編集版~
 翌日は起きられなかった。
 学校に行くなんてできるわけはなかった。
 お母さんに「お腹が痛い」と言って休ませてもらった。
 
 一日中ベッドの中でごろごろしていた。
 本を読むのは無理だった。
 テレビを見る気も起らなかった。
 お母さんが作ってくれていたおじやを温めて食べた時以外はベッドの中にいた。
 
 夕方になった。
 お母さんが帰ってくる時間になったので、心配かけないようにパジャマを脱いで洋服に着替えた。
 
 それから少ししてインターフォンが鳴った。
 お母さんはそんなことはしないので誰かなと思ったら、ディスプレーに男の子の顔が映っていた。
 建十字だった。
 思わず「はい」と返事すると、「大丈夫だからな」と言った。
 その途端、顔が替わった。
 横河原だった。
「心配ないからな」と言って画面から消えると、奈々芽が現れた。
「明日来いよ」と言って親指を立てた。
 その後ろに建十字と横河原の顔が映ったと思ったら、「じゃあな」と言う声が聞こえて三人が遠ざかっていった。
 
 わたしは無人になったディスプレーをいつまでも見つめていた。
 頭の中には「大丈夫だからな」「心配ないからな」「明日来いよ」という言葉がぐるぐると回っていた。
 
 何かあったのは間違いないと思った。
 建十字と横河原が用務員さんにあのことを聞いたのだろうか? 
 それを奈々芽に話して寒田と黄茂井に詰め寄ったのだろうか? 
 本当のことはわからないけれど、自分の知らないところで何かがあったのは間違いないように思えた。
 でなければ三人がうちに来てあんなことを言うはずはない。
 でも……、
 思考を中断するように玄関の方でガチャっという音がした。
 お母さんが帰ってきたようだ。
 わたしは急いで玄関に行って「おかえりなさい」と明るい声で出迎えた。

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