あのね、わたし、まっていたの  ~誰か声をかけてくれないかなって~ 【新編集版】
「行ってきます」

 できるだけ明るい声を出して家を出た。
 でも、歩いているうちに体がおかしくなってきた。
 目の奥が痛くなってきて、心臓がドクドクしてきた。
 息をするのがしんどくなってきた。

 やっぱり行けない……、
 
 そう思った途端、動けなくなった。
 
 お母さん……、

 しゃがみ込んで、顔を両手で覆った。 

 すると、寒田と黄茂井の顔が浮かんできた。

 やめて!

 怖くなって両手を顔から離すと、光が戻ってきた。
 でも、立ち上がる力はどこにもなかった。

 その時、「どうしたの?」という声が聞こえた。

 見上げると、知らない女の人がわたしを見つめていた。

 「しんどいの?」

 わたしは首を振った。
 そして、立ち上がろうとした。
 でも、無理だった。

 すると、女の人が「ちょっと待ってて」と言って、どこかに行った。

 誰かを呼んでくるのだろうと思った。
 病院に連れて行かれるのだろうと思った。

 それは嫌だった。
 大事(おおごと)になってしまうし、お母さんに心配をかけてしまう。

 わたしは必死になって立ち上がって、塀に手をつきながら歩き出した。 
 歯を食いしばって足を前に動かした。

 
 
 

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