あのね、わたし、まっていたの  ~新編集版~
 フィレンツェと聞いて、運命の出会いのような気持ちになった。
 あの憧れのフィレンツェに生まれた人なのだ。
 何かがわたしに引き合わせてくれたとしか思えなかった。
 そのことに感謝しながら夢中になって読んだ。
 
 当時、看護師という職業は劣悪な環境で行われる危険な仕事と思われており、社会的な地位も低かった。
 だから、その職業に就くことは両親から強く反対された。
 しかし、彼女はその反対を振り切って看護師になり、更に、戦場という最も危険な現場に(おもむ)く決断をした。
 祖国のために戦って傷ついた兵士を必死になって看病しなければならないという強い使命感が彼女を突き動かしたのだ。
 その行動が母国イギリスの新聞に紹介されると、その献身的な働きに称賛の声が上がった。
 それも数多くの称賛が。
 それを見て、彼女の両親の考えが変わった。
「あなたは私たちの誇り」という言葉を贈ったのだ。
 しかしそれで満足することはなく、戦場から戻った彼女はロンドンに看護学校を設立した。
 そして、看護学に関する書籍を執筆した。
 その結果、看護師という職業の社会的地位向上に大きな貢献を果たすことになった。
 
 読み終えて目を瞑ると、ナイチンゲールの姿が鮮明に浮かび上がってきた。
 すると、彼女がわたしに話しかけてきた。
 
「困っている人に手を差しのべなさい。悩み苦しんでいる人に声をかけなさい。あなたが救われたように誰かを救うのです。勇気を出して一歩踏み出しなさい。救いの手を待っている人たちのために」

 目を開けたわたしは、三文字悪ガキ隊それぞれの顔を思い浮かべた。

 彼らがいなかったらどうなっていただろう? 
 
 辛い毎日の中で自分の運命を嘆いていただけだったに違いない。
 もしかしたら死ぬことを考えたかもしれないし、その前に復讐していたかもしれない。
 どちらにしても恨みや憎しみが心を支配していたはずだ。
 人の役に立ちたいなんて決して思わなかったに違いない。
 でも、今は誰かの役に立ちたいと真剣に思うことができる。
 これも彼らのお陰だ。
 感謝してもしきれない。
 いや、そんなものじゃない。
 命の恩人だと言っても言い過ぎではないのだ。
 だからその夜、寝る前に三人の顔を思い浮かべて「ありがとう」と言った。
 そして、これから先も一日も欠かさず「ありがとう」と言い続けることを心に誓った。
 
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