あのね、わたし、まっていたの  ~誰か声をかけてくれないかなって~ 【新編集版】
 修学旅行前日の深夜、家族が寝静まるのを見計らって台所へ行き、食器棚の3段目の引き出しを開けた。
 しかしその途端、目が点になった。
 あるはずのものがなかった。
 財布がなかったのだ。
 一瞬にして不安が頭を過った。
 
 お母さんに気づかれたのかもしれない。
 どうしよう……、
 
 でもすぐにその不安は恐怖に変った。
 母親の顔が消えて寒田と黄茂井の顔が浮かんできたからだ。
 
 殺される……、
 
 体がブルブルと震えた。
 
 部屋に戻ったターゲットは手紙を書き始めた。
 寒田と黄茂井に虐められていることをすべて書き連ねた。
 そして、『お母さんごめんなさい、許してください』と結びの言葉を書いた。
 それを封筒に入れ、引き出しの中にしまった。
 修学旅行中に何かあった時のために証拠を残しておきたかった。
 それに、もし酷い目に遭ったら、その時はこれが遺書になるかも知れない、
 そう呟いた時、タダでは死ねないと思った。
 両手を合わせて必死になって祈った。
 そして、バイク、自転車、トラック、と何度も声を出した。

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