あのね、わたし、まっていたの  ~誰か声をかけてくれないかなって~ 【新編集版】
       ◇ 縦横斜め〇△☐隊 ◇

「明来貴真心さん」

「はい」

 中学1年生になったわたしは勢いよく手を上げた。
 身長が低いので教室の一番前の席に座っているが、背中に感じる安心感が体をシャキッとさせていた。
 一番後ろの席には建十字と横河原と奈々芽がいるのだ。
 振り向くと、彼らは軽く手を上げて、小さく頷いた。
 
 窓に目を移すと、抜けるような青空が見えた。
 そして、遅咲きの桜が校庭で満開の時を迎えていた。
 わたしの心の中にも正真正銘の春が訪れていた。
 寒田と黄茂井が学内にも町内にもいないことが大きかったが、それだけでなく、大好きな三人組がクラスメートになるという幸運に心が躍らないはずはなかった。
 
 その三人組のことを、もう誰も三文字悪ガキ隊とは呼ばなくなった。
 中学一年生で身長が175センチを超えている三人に悪ガキ隊は似合わなくなっていたからだ。
 縦横斜め隊。それが彼らの新しい呼ばれ方だった。
 
「縦と横と斜め……、わたし全然気づかなかった」

 くすくす笑うのを三人はしらっと見ていたが、「縦と横と斜めがいるんだから、丸と三角と四角もいたりして」と何気なく発した言葉に、「おもしれ~。いるかもな。探してみるか」と三人が一斉に食いついた。

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