あのね、わたし、まっていたの  ~新編集版~
 一方、枯田は街頭演説を一切しなかった。
 固定票の取りまとめに奔走していたのだ。
 関係の深い企業や組織を何度も訪問し、票固めに万全を期していた。
 更に、桜田へ1票たりとも票が流れるのは許さないという強い姿勢で関係者に発破をかけ続けた。
「完膚なきまでに叩き潰せ!」と。

 しかし、浮動票の怖さを枯田は知らなかった。
 選挙という戦いを経験したことがない彼には固定票しか頭になかった。
 何故なら、浮動票は一切目に見えないからだ。
 氷山の隠れた部分のように、その大きさがわからない。
 だが、目に見える固定票の何十倍、何百倍もの大きさがあるのだ。
 枯田がそれを知るのは、選挙戦も終盤に差し掛かった頃だった。

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