あのね、わたし、まっていたの  ~慈愛の物語~ 【新編集版】
「ここをよく見てください」

 男性が右手に持った紙袋を指差した。
 銀座にある老舗高級和菓子店の紙袋だった。
 
「これが店から出てきた時の写真です」

 紙袋は持っていなかった。
 
「怪しいと思いませんか?」

「確かに怪しいが、これは誰なんだ?」

「それはまだ……」

「あとを付けなかったのか?」

「張り込みを続けていましたので……」

「それじゃあ、この男が枯田陣営の人間だと断定できないじゃないか」

 本部長に追及された探偵はちょっと首をすくめたが、それ以上反論はせず、気まずいような表情で視線を下に落とした。
 それを見て本部長が舌打ちをしたが、すぐに、う~ん、と唸って、組んだ両手の親指をくるくる回し始めた。
 どうしたものかと思い巡らせているようだったが、「ちょっと考えさせてくれ」と言って指を止めた。
 桜田が頷くと、探偵と二人で病室から出ていった。
 
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