あのね、わたし、まっていたの  ~誰か声をかけてくれないかなって~ 【新編集版】
 ひとしきり熱弁を振るったオーナーは残り少なくなったボトルを掲げて、どうしようかな、というような表情を浮かべたが、これで止めるという選択肢は選ばなかった。

「飲み切るぞ!」

 残り少ない幻の酒を2つのグラスに注いで、「乾杯!」と声を上げた。
 弟も掲げ返したが、口は付けず、オーナーが飲むのをただ見ていた。
 
「これもどうぞ」

 飲み干したオーナーに自分のグラスを差し出した。

「えっ、いいのか?」

 驚いた表情になったが、弟が頷くと漫画のような目尻になって受け取り、一気に飲み干した。

 そこで様子を見た。
 そろそろオネムの時間になってもらわないと困るからだ。
 しかし、目がトロンとして体は少し揺れているが、すぐに寝そうな感じではなかった。
 困ったな~と思ったが、もう打つ手は残っていなかった。
 それに、酒もなくなったのでここに残る理由もなくなった。
 
 万事休すか、と思った時、オーナーの口が開いた。
 大きなあくびだった。
 それが立て続けに出ると、体の揺れが大きくなった。
 目はほとんど開いていなかった。
 何やらブツブツ言ったと思ったら、そのままゆっくりと机にうつ伏した。
 そして、寝息を立て始めた。
 
 息をひそめて見つめた。
 完全に眠るまで音を立てずに見つめ続けた。
 それでも念のためにもうしばらく待って彼の背中に手を置き、小さな声でオーナーの名前を呼んだ。
 反応はなかった。
 しかし焦らなかった。
 心の中で100数えて今度は背中を揺すった。
 しかし、びくともしなかった。
 そのうちイビキが聞こえてきた。
 間違いなく熟睡状態に入っていた。
 
 弟はパソコンのディスプレーに目を移した。
 そこにはさっきから気になっていたアイコンがあった。
『秘密』
 もう一度オーナーの状態を確認してからそのアイコンをクリックした。
 
 あった。
 あの写真があった。

 それをすべてスマホで撮影した。

< 91 / 173 >

この作品をシェア

pagetop