あのね、わたし、まっていたの  ~新編集版~
 スポーツ選手だけあって三人はよく食べよく飲んだ。
 刺身の盛り合わせ、海鮮サラダ、たこワサビ、アサリとハマグリの酒蒸し、ブリ大根、カキフライ、ホタテのジュージュー焼き、大海老とアナゴの天ぷら、なめろう、さんが焼き、鮭のホイル焼き、縞ホッケの焼き物、海鮮丼の大盛りなどが次々に運ばれてきて、あっという間に平らげてしまった。
 それに、生ビールのジョッキとチューハイのグラスが何十杯も空になった。
 わたしは彼らの食欲に圧倒されながらも、食べっぷり、飲みっぷりの素晴らしさに何度も感嘆の声を上げた。
 
 彼らは食べながらも面白おかしく近況を語った。
 時には大きな声で、時にはヒソヒソ声で。
 その声の大きさに応じて、時には大声で、時にはくすくすと笑い合った。
 
 彼らが満腹になり、お酒がお茶に変わった時、わたしは桜田市長と進めている計画について打ち明けた。
 すると、異口同音に賛意の声が返ってきた
 
「スポーツ専門中学校って凄いじゃん」

「いいね。それ、いいね」

「やろうよ。実現させようよ」

 三人が身を乗り出してエールを送ってくれた。
 それはとても嬉しいことだったが、ネックになっていること、夢開市の厳しい税収のことを説明すると、表情が曇り、「ん~」と腕組みをして唸った。
 それはそうだ、10万円や20万円の話ではない。
 はるかに多額な資金が必要なのだ。
 簡単に妙案が浮かぶはずがなかった。
 
「宝くじでも買うか?」

 奈々芽が重くなった空気を和らげようとしたが、却ってもっと重くなってしまった。

「ところで、」

 横河原が話題を変えようとしたが、そのあとが続かなかった。

「ごめんね。せっかく久しぶりにみんなが集まったのに」

 わたしはこの話を打ち切ろうとしたが、建十字の声がそれを止めた。

「なんかいい方法があるはずだよ。絶対ある」

 明日一日考えて、アイディアを絞り出して、それを持って桜田市長のところへ行こうとわたしたちを促した。

「そうだね、三人寄れば文殊の知恵と言うからね。4人だともっといいことを思いつくと思うよ」

 横河原が、なっ、という感じで横に座る奈々芽の肩を掴んだ。

「ああ。為せば成る、為さねばならぬ、何事も」

 そこまで言ってわたしに振った。

「成らぬは人の為さぬなりけり」

 きちっと締めると三人が声を出しながら手を叩いてくれた。
 わたしの心は一気に晴れた。

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