御話紡-短編集-
少しの間、静かな時間だけが流れていく。

再びついた皓のため息に重なったのは、同じため息だった。

聞き間違えることのない声の方を見やると、桜の木の枝の上にいた一人の少女と目があった。

「あれ?厘、いつからそこにいたんだ?」

皓が不思議そうに待ち人である少女に訊ねかけると、少女ーー厘はもう一度、そして今度は深々とため息をつき、枝に膝を引っかけて逆さまにぶら下がると、両の腕を胸の前で組んだ。

「私は花が咲いたときからずっとここにいたわ。いつ気がついてくれるのかと思ってたのに、皓ったら全然気がついてくれないんだもの。思わずため息でちゃった」

ちょうど皓の目の前に厘の顔があった。

その表情は、幼子のように拗ねたものだった。

口元に苦笑が浮かぶ。

「皓~?」

厘がジト目で皓を睨みつけると、ごめんごめんと苦笑を浮かべたまま、皓が謝ってみせる。

ヘンな意味があって笑ったのではないと、厘に説明すると、完全に信用したわけではない表情のままで、厘は枝の上に戻っていく。
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